最終決戦の地、オーストラリアへ

 最終戦オーストラリア。私は、現地へ飛びました。オーストラリアの初日、予想通り、先頭出走のオジェは大幅にタイムをロスして10位に沈みました。2番手出走のヌーヴィルもまたタイムを失って9位。このまま順位が膠着した状態が続くなら、最終のパワーステージまでタイトルの行方はわかりません。しかし、ヌーヴィルはバンプ(路面の凸凹)で大きく跳ねてコースオフし、タイヤがパンク。これで、オジェがタイトルを獲得する様相が濃くなってきました。

 そして、ラリー最終日。雨が降って滑りやすくなった路面でヌーヴィルがスピンしてコースオフ。リタイヤとなって、選手権争いから脱落が決定したのでした。まさかの事態その1。しかし、まだタナクがいます。万一オジェが大きくミスをしたりすれば、タナクにも可能性があります。と思っていたら、なんと最終ステージの1つ手前のステージで、タナクもまたコースオフして、リタイヤ。まさかの事態その2。最終ステージが始まる前に、オジェ/イングラシア組の6度目のタイトルが確定したのでした。

最終ステージを待たずしてタイトルが確定するというまさかの決着。泣けばよいのやら笑えばよいのやらわからず。私のアホ面が世界中に発信されてしまいました ©Sophie Graillon
最終ステージを待たずしてタイトルが確定するというまさかの決着。泣けばよいのやら笑えばよいのやらわからず。私のアホ面が世界中に発信されてしまいました ©Sophie Graillon

 たった3ポイントのリードで首位に立つことは、出走順を考えると不利に見えました。ところが、オジェはわずかな差でも、ポイントで上回ることを選んだのです。なぜでしょうか。

 彼は、これまでの5度のタイトル争いの中で、タイトルを獲得するための戦い方を知っていました。ポイントで下回っている方は、必ずライバルよりも上の順位でフィニッシュしなければならない。すると、心理的にプレッシャーがかかるとオジェは読んでいました。実際、その通りになったわけです。ヌーヴィルは、初日に一つ目のミスを犯し、もう後がない状態になりました。タナクも自力優勝がない以上、可能な限り上位で終える以外ありません。そうして2人とも限界ぎりぎりまで攻めた結果、最後に大きなミスをしてしまったのです。

 オジェは1ポイント、1ポイントの重要さを知っていました。このシーズン、Mスポーツはチームオーダーを何度か発動しました。ラリーでは、「タイムコントロール」と呼ばれるチェックポイントを何カ所も、指定された時間通りに通過しなければなりません。もし遅れたり、あるいは指定時間より早く着いても、タイム加算のペナルティを科せられます。オジェのチームメイト、エヴァンスとスニネンは、オジェより上の順位にいる場合、タイムコントロールにわざと遅着するなどしました。たった1ポイントでもオジェに多く獲得させるために。そうして細かく築いてきたポイントが、最後にライバルにプレッシャーを与え、選手権での勝利に繋がったわけです。

 チームオーダーが良いか悪いかといった議論もあるでしょうが、私は、仕方ないのではないかと思います。まして、リソース面でライバルに劣るMスポーツ。ボスのマルコム・ウィルソンとしては、チームオーダーで協力するしか、もはやできなかったのかもしれません。

 マニュファクチャラー選手権は、ほぼ、トヨタとヒュンダイの一騎打ちでした。トヨタがタイトルを獲得できた背景には、やはりシーズン後半で車のパフォーマンスがアップしたことが効いています。チームメイトのヤリ=マッティ・ラトバラもシーズン後半は表彰台を次々獲得していますし、タナクがリタイヤに終わった最終戦オーストラリアでは優勝を飾りました。また、ラトバラがリタイヤでノーポイントに終わったラリーでは、若手のエサペッカ・ラッピが表彰台に乗るなど、チームとしての点の取りこぼしが少なかったのです。なお、ラッピは今年シトロエンに移籍し、同じくシトロエンへ移籍するオジェのチームメイトとなります。

 オジェはフォルクスワーゲンで4度、Mスポーツで2度のタイトルを獲得しました。実は、異なるチームでタイトルを獲得したドライバーというのは、けして多くないのです。9度の王者ローブは、すべてシトロエンです(正確にはシトロエンが一時ワークスから撤退した年もありますが、実質的にはシトロエンと言っていいでしょう)。4度の王者トミ・マキネンは、三菱で獲得しました。

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