3人のドライバーによるし烈な争い
ここ何年も、ドライバー、コドライバー選手権は最終戦を待たずして早々に決着がつく年が続いていました。最後にタイトル争いが最終戦まで続いたのは、2011年。しかし、最終戦を前にローブ(シトロエン)が8ポイント差で選手権2位のミッコ・ヒルボネン(フォード)を上回っており、手堅く行けばローブがタイトルを決めることがほぼ見えていました。そもそも、この年はシトロエンが圧勝していて、ローブのライバルだったのは、むしろ当時チームメイトだったオジェです。その前に最終戦までタイトル争いがもつれたのは、2009年のこと。つまり、WRCは、10年近くも「誰が勝つのかわからない」というドキドキハラハラから遠ざかっていたのです。さらに、2018年は3人のタイトル候補者が三つ巴で争うという、かつてない状況でした。
その3人とは誰か。こちらです。
- セバスチャン・オジェ(Mスポーツ・フォード。車両はフィエスタWRC)
- ティエリー・ヌーヴィル(ヒュンダイ。車両はi20クーペWRC)
- オット・タナク(トヨタ。車両はヤリスWRC)
2018年からトヨタGAZOOレーシングに移籍したオット・タナクが移籍初年度から大活躍。タナクについては、以前の記事(こちら)でも紹介しました。記事を書いた当時は、まだ初優勝も遂げていなかったのですが、その年に2勝をあげて、文句なしのトップドライバーに成長。2018年は4勝し、押しも押されもせぬトヨタのエースドライバーとなったのです。これまで、オジェとヌーヴィルの2人が争っていたタイトルにタナクが加わって、選手権は大いに盛り上がり、のみならずトヨタのマニュファクチャラー・タイトル獲得にも大きく貢献しました。

最終的には、6度目のドライバータイトルを獲得したオジェですが、その道のりは彼のキャリアでかつてなかったほど、苦難に満ちたものでした。開幕戦から4戦中3勝を手にして、順調な滑り出し。しかし、第5戦アルゼンチン以降、オジェは、以前はほとんど犯したことのないミスをたびたび見せるようになり、勝利から遠ざかってしまいました。すると、ヒュンダイのヌーヴィルが反逆に出ます。第6戦ポルトガルを制し、続く第7戦サルディニアでは、オジェとの激闘の末、わずか0.7秒差で優勝を飾りました。3日間、300km以上ものステージを走って、1秒にも満たない差で勝敗が分かれるのです。これもラリーのすごさ。シーズンの折り返し時点で、ヌーヴィル149ポイント、オジェ122ポイント。
ラリーは優勝すると25ポイントが加点され、そのほかに最終ステージは「パワーステージ」として最速の人に5ポイント、2位には4ポイント、以下5位までの人にポイントが与えられます。つまり1回のラリーで獲得できる最大ポイントは30。27ポイント差というのは、もし自分が次のラリーでリタイヤしてノーポイントに終わり、ライバルが優勝したとしても、ほぼイーブンでいられるほどの大きな余裕というわけです。

トヨタの新エンジン投入がタナクの快進撃を呼ぶ
ところで、タナクはというと、第5戦アルゼンチンを制したものの、ほかのラリーではトラブルなどに見舞われ、第7戦終了時で77ポイントと、ヌーヴィルやオジェから大きく出遅れていました。彼の選手権はほとんど終わったかのように思えました。
ところが、第8戦フィンランドからタナクの快進撃が始まります。続く第9戦ドイツ、第10戦トルコまで3連勝。シーズンの残り3戦となった時点で、ヌーヴィル177ポイント、タナク164ポイント、オジェ154ポイント。タナクはオジェを抜き、ヌーヴィルも射程圏内に収めました。
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