「気楽に過ごせる」稀有な都市、東京

空気を読むのが得意な日本人が勝てそうな分野ですね。ところで、昨年の夏から都知事主催の「東京のグランドデザイン検討委員会」が3回開催されています。私もNeXTOKYOの概要を紹介する機会をもらいましたが、小笠原さんは今年1月末の会合に参加されました。どんな提案をしたのですか。

小笠原:「芸人枠」として好き勝手なこと言ってきました(笑)。情報は集めるより集まるほうがいい。みんなが集まるには、技術研究を伴うスタートアップや投資家にとって、世界最優遇の環境を目指しましょう。「みんな」というのは多様性のことだから、働きやすく、楽しみが身近にあって、子どもを育てやすい街にして、世界中から優秀な人を集めましょう。多様な人材が集まって議論する場が必要なので、技術・経済・社会・文化を横断した研究機関をつくりましょう。関連して幼児教育を義務化し、初等中等教育で現在の高等教育の内容まで教えて、15歳でスタンフォード大の公開講義を受けられるようにしましょう、とか。ロボット技術や人工知能(AI)によって人の仕事が減る分、教員数を2倍にして国を挙げて教育投資をしましょう、とか。いろいろな提案をしてきました。

都の上層部にもかなり響いていたと聞きました。

小笠原:単純に、僕は東京という街が好きで、もっと楽しくしたいと思っています。だってこんなに楽しく働けて、気楽に過ごせる街は世界中でもここしかないですから

楽しくて、かつ安全である。「気楽に過ごせる」というのは、実はいくつもの条件を備えないと達成できない高度な環境でもあります。

小笠原:仕事でむちゃくちゃ集中して、ガーッと突破した後に、ふっと緩められる。集中とリラックス、どちらも叶えられる都市であることが東京の魅力です。それをアメリカに求めていた時代もあったかもしれないけど、アメリカに行けば本当に高く跳べるのか疑問です。ニューヨークは何か気取ったテンションだし、西の方は無理やり陽気な感じがあるし(笑)。ボストンは研究にはいいけれど楽しみが少ない。その点、東京はバランスがとても良くて自然体でいられる。欲を言えば、もう少しエンターテインメントとスタートアップの熱を上げたいですね。

技術の進歩で求められる新しいビジネスモデル

最後に一つ。IoTを含めた次世代技術によって、東京はどう進化できるのでしょうか。

小笠原:技術によって起こり得る生活の変化を想像しようとすると、いろいろな可能性が見えてきます。例えば東京中の路面にセンサーを取り付けて、人が倒れたらすぐに正確な場所の情報を救命センターに送り、ドローンが飛んでくるとか。高齢化に向けて医療先進都市を目指すとしたら、まずはこういった医療分野が先行するでしょう。

 楽しみを阻害しない技術進化という視点も大事になります。自動運転によって渋滞が解消されたら、ある一定の時間帯だけ道路を限定して「好きなだけスピード出してOK」にするとか、技術によって生まれる新たな環境設定で運転する楽しみを提供するんです。また自動運転が普及すれば駐車車のニーズも減るので、今よりも空き地が増えます。そしてバスケの練習場とかスポーツを楽しめる場所が増えるといいなと思います。

都市全体のレベルで新しい環境を作るには、単に技術を高めるだけでは足りませんよね。

小笠原:新しいビジネスモデルが必要になります。昔、トラクターによって農業革命が起こった時には、トラクターそのものの開発ももちろん大事でしたが、「トラクターを分割払いで誰でも買えるようにした」という売り方のイノベーションが不可欠だった。今はまだ技術寄りの議論に偏っていて、その先、どんな風に人が幸せになるのか、そのためにはどんな広げ方が必要かというステージに至っていない。そこの議論がとても大事になります。

 自転車専用ロードを設置すべきか否か、という議論もありますが、当然、設置した方がいいと思います。けれど、それによってより多くの人がハッピーになるという文脈が大切なんです。オランダで成功しているように、自転車が走れるロードは全て発電 ロードにすればいい。そして自転車走行によって発電された電気は、その地域の人たちに還元されれば、地域の人たちも電気代が下がってウェルカムでしょう。好意を持ってサイクリストを受け入れられるように知恵を使う。この「好意を生む仕組み」がとても大事です。そういうシステムはどこかで試して成功したら、一気に広がるんじゃないでしょうか。

技術の未来に対してネガティブな意見はありますか。

小笠原:この間の検討委員会では、「子どもがスマホにはまっている状況をどう思いますか」という意見がありました。この委員会は2040年の話をしているのに、2040年にスマホがあると思っているんかなとビックリしたんですけど。おそらく想像されたシーンとしては、子どもの手にスマホがあって、画面を指で操作しながらゲームしていて、お母さんが「早くご飯食べなさい!」と怒っているような状況ですよね。

けれど小笠原さんがおっしゃる「UIをなくす」時代には…。

小笠原:(スマホは)なくなっていますよね。親の不安は本質的には変わらなくて、僕らが子どもの時に『コロコロコミック』を読みふけって怒られたのと同じなんです。手に持っているのが教科書だったらお母さんは怒らない。そういうことじゃないでしょうか。

 一方で、UIが役立つ場面もあると思います。例えば商談が長引いた時、僕がちらっと腕時計を見たら、相手は「あ、そろそろ切り上げんとな」と察してくれますよね。そういう意志表示の代わりになる機能も、実はUIにはある。だから、UIは使いたい時だけ使える、くらいのものにできたらいいなと思っています。

 省いて快適になるものはどんどん省いていく。荷物が多い時にタクシー止めるために手を挙げるのはしんどいですもんね。介護されている状況で「そろそろ尿意が…」という時、何も言わなくても介護士さんが来てくれたら助かります。これは「aba(アバ)」という会社が開発に取り組んでいるサービスです。こうした面白いものが、これからはいっぱい出てきますよ。