東京にも高度クリエーティブ人材の土着化を

労働力の量的補完よりも、質の向上の視点の方が重要ですよね。田川さんが教えるRCAのクラスに、アジア人はどれくらいいますか。

田川:1学年80人のうち、30人程度がアジア人です。みな、非常に優秀です。

 2015年に卒業したアジア人学生の中にも、トップレベルの優秀な学生がいましたが、前述のビザ政策が2013年に廃止されてしまったため、結局母国に帰るしかありませんでした。イギリスからすると、せっかく手塩にかけて育てた人材が国外に流出してしまうことになります。

 イギリスのビザ廃止と同時期に逆に規制を緩めたドイツに人材が流れているという現象も起きています。大学に呼び込んで教育した海外の人材を、自国の産業界に橋渡しする制度がとても大事なのだと思います。「高度クリエーティブ人材の土着化政策」とでも言いましょうか。これが東京を進化させるキーワードの一つでしょう。

その促進策の一つが例えばビザ緩和である、と。他にすべきことはありますか。

田川:大学教育に外国人が入りやすい環境づくりです。日本語だけで講義をするのではなく、英語への対応も進めていかなければいけないと思います。教える側の人間も日本人だけではなく世界中から集めてこれるといいですよね。

 また、大学で外国人留学生を受け入れる際には、日本語学習を積極的に補助してあげるのも効果的だと思います。日本語をしゃべれるようになった外国人の土着化率は高いと思います。

 ほかにも、デザイン拠点のようなものが東京にできるといいですよね。日本にも素晴らしい美術大学がいくつもあって、産業界で活躍するデザイナーもいる。そこに海外から若手のデザイナーを集め、社会の課題に向けて何ができるのか、デザイン面から解決策を発信するラボのような拠点があるといいのではと考えています。

 国内外の多様な英知を集結できる環境や制度を整えた結果、気づいたら自然に東京に外国籍のクリエーティブ人材が多く住みついて、産業を内外から支えている。そんな都市の未来像を、21世紀の東京の姿として思い描くことは可能です。

これからの日本に必要なBTC型リーダー

ロンドンやニューヨークなど、デザイン先進都市は世界にすでに存在します。その中で東京が打ち出せる優位性は何でしょう。

田川:ものづくりにおける高い完成度でしょう。安心して暮らせる安全な環境も強みです。私が知っているアメリカ育ちの台湾人女子学生は、「安全な東京で就職しなさいと親から言われている」と言っていました。世の中には「草食系外国人」ってたくさんいます(笑)。ロンドンはガチャガチャと刺激的で、それを心地いいと感じるクリエーターも多いのだけれど、東京ならではの落ち着いた雰囲気を好むクリエーターも多いはずです。

特にデジタル系クリエイターにとっては、東京には高度なアニメ文化もあるし、幸せな環境ですよね。産業競争力を支える人材に関するもう一つの提言として、「BTC」というキーワードを提唱されていますね。

田川:ビジネス、テクノロジー、クリエイティブという三つのスキルセットで、人材育成をしていこうという話ですよね。

 日本の教育は、文系・理系と分断されたサイロ型ですが、「ビジネスを分かるのは文系、技術を分かるのは理系、クリエーティブ全般は美術系」という区分は、今の時代にまったく合っていないと思います。

 日本には、自動車や電機メーカーなど、技術出身のBT型経営者はいたのだけれど、Cまで兼ね備えた経営者は少数です。これから経営陣になる世代の人材と、C側の人材を積極的に交流させることで、BTC型リーダーの育成が促進されるべきです。

 BTC型リーダーは、東京を絶えず新しいものを生み出す都市として進化させていく上での中心的役割も果たしてくれるはずです。