(写真:田村翔/アフロスポーツ)
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 気づけば師走。日本においても世界においても様々な出来事や変化があった1年ですが、私にとっての2016年はやはり「リオデジャネイロ五輪の年」でした。

 2012年のロンドン五輪では、競泳史上最多の11個のメダルを獲得しましたが、金メダルを獲得できなかったことが大きな悔しさとして残りました。以来、「センターポールに日の丸を」を最大の目標に掲げ、リオ五輪までの4年間を過ごしてきました。

 その結果、チーム平井からは萩野公介が男子400m個人メドレーで金メダルを獲得。チームジャパンとしては、女子200m平泳ぎで金藤理絵選手がキャプテンとしての意地を見せた金メダルを獲得してくれました。リオ五輪で2つの金メダルを獲得できたことは、日本競泳界にとって大きな手応えとなり、4年後の東京五輪に向けて大きな弾みになったことは間違いありません。

 また、チーム平井からは、星奈津美が女子200mバタフライでロンドン五輪に続く2大会連続での銅メダルを獲得。小堀勇氣が800mフリーリレーで第3泳者を務め、1964年の東京五輪以来の銅メダル獲得に貢献してくれました。

金メダルへの道は1本ではない

 萩野公介が金メダルを獲れた要因は何か。

 それはロンドン五輪からリオ五輪までの、私の取り組みの総括のようなものにもなりますが、その前に、コーチとして私がこれまでどのような指導を実践してきたか、少し振り返っておきたいと思います。というのも、同じ金メダリストでも、北島康介と萩野公介では指導のアプローチが異なるからです。

 五輪のメダリストを育てる。そこには近道も、「これさえやれば大丈夫」といった安易な黄金則もありません。その選手が持つ泳力はもちろん、物事の見方、考え方などをも理解して、どうしたら力のすべてを引き出せるかを考えます。そして、いかに更なる力を積み上げるかを考え、さらにその力を五輪の決勝の舞台で発揮させるための方策を考えます。それは選手ごとに異なり、指導をしながら修正を加えつつ、最後の最後まで考え続けることになります。

 北島康介の場合は長期的な視点をもって臨んだ指導でした。

 東京スイミングセンターで北島や上田春佳(ロンドン五輪銅メダリスト)を指導していた時は、彼らが中学生の頃から、五輪のメダリストを育てるという10年ほどの長期スパンのプロジェクトとして始動しました。

 北島の場合、2000年のシドニー五輪の男子100m平泳ぎで4位に入賞したことを1回目の成功とし、アテネ五輪での金メダルを2回目の成功、北京五輪での金メダルを3回目の成功というように、長い時間を共に過ごしながら、成長の実感を共有しながら、途中に数多く立ちはだかった壁も一緒に乗り越えながら、階段を上っていきました。

 その時の指導方法は、まず長所を伸ばすことが先にあり、さらなる目標を達成するために必要な短所の克服に取り組みました。

 長所を伸ばして入賞したシドニー五輪を終えた後、アテネ五輪で金メダルを狙うにはスピードアップが必要不可欠でした。それには、ストロークを大きくことが必要で、パワー不足を補うことが大事になる。体が大きくなかった北島の練習にウエイトトレーニングを導入して体を鍛えたことで、それを克服することができました。

 まずはじっくり長所を伸ばし、自分への自信を育てる。その上で短所としっかり向き合い、克服する。そうして時間をかけて一つひとつ成功体験を積み重ねていきました。

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