回り道からこそ、学ぼう

 翻って自分のことを考えると、東京スイミングセンターに入社した時、先輩から「平井、君の上には10人のコーチがいるから、君の出番はあと10年はないよ」と言われました。一日でも早く「選手育成コース」で一流選手を育てたいという思いを持っていましたから、その宣告はショックでしたが、私はいったんその状況を受け入れることにしました。

 目標を諦めたわけではありません。休日には筑波大学の競泳関係者のところを訪ね、競泳の技術を勉強させてもらいました。スイミングセンターで成人教室の指導を担当した時は、将来、大学生や社会人のトップスイマーたちを指導する時のために、伝えたいことをうまく伝えるための言葉の使い方を磨こうといった心構えで取り組みました。

 そうして迎えた26歳の時、当時最年少の指導者としてパンパシフィック大会のナショナルチームに加わることができました。それを機にナショナルチームで指導し続けたいという思いが強くなり、当時読んだある本を参考に、指導者としての「自分年表」を作成しました。

 「33歳でアトランタ五輪」「37歳でシドニー五輪で戦える選手を育てる!」。そんなことを書きました。ナショナルチームでキャリアを重ね、自らのピークを目指す青写真でしたが、次にナショナルチームに入れたのは37歳。約10年の年月を要しました。

 その10年間が先述したジュニア育成時代です。思いは強く持ち続けながら、しかしなかなか思い通りにいかない。そんな中で試行錯誤を続ける日々でしたが、振り返れば、得たものは大きかったと思います。

 仮に自分年表の通り、ただ順風満帆に進んでいたらどうだったか。自分の指導スタイルを追求する十分な時間を持てずに、いまださまよっていたかもしれません。

 最速を目指す道のりであっても、時に回り道を厭わず進むべし。間近に迫る大きな目標に全力を賭しながら、同時に、こうした心構えも忘れず胸に留めておきたいと思っています。

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