チャーバハール港は中央アジア戦略でもある

 しかも、この「中国・パキスタン経済回廊」構想は単に中国とパキスタンだけでなく、中央アジアへの影響力も持っている。例えば中央アジア諸国が天然資源を輸出するとしたらどこを通るだろう。

 陸続きのルートはあるが、やはり海に出ないと不便だ。そこで、インド洋への出口を探すことになる。アフガニスタンを通ってパキスタンに出て、「中国・パキスタン経済回廊」の道路をたどればインド洋に出ることができる。これは、中央アジアの国々の重要な貿易ルートを、中国が管理することを意味する。

 そこで、日本とインドとしては、まず、中国がインド洋へ進出するのを阻止するために、グワダル港のプロジェクトを無力化したい。方法は2つある。1つは、「中国・パキスタン経済回廊」の信頼性を低下させること。もう1つは、中央アジアからインド洋につながる別のルートを開拓することである。

 1つ目の方法、信頼を低下させるにはどうしたらいいか。「中国・パキスタン経済回廊」にはもともと脆弱性がある。そのことを強調すれば、信頼が低下する。例えば、パキスタンのグワダル港があるバルチスタン州では、独立を求める反乱がある。この地域の反乱軍 は2004年に中国人技術者を殺害している。2017年に入ってからは、道路の建設現場を襲撃したり、中国人を誘拐したりする事件も起こしている。パキスタンは、これらをインドが支援したとして非難している。

 インドが実際に支援している証拠はない。ただ、バルチスタンの反乱軍がおかれた状況に同情はしているようだ。インドのモディ首相は2016年8月、パキスタン政府がバルチスタンで行っている人権侵害(反乱軍を鎮圧する苛烈な作戦)について公式演説の中で初めて非難した。2016年9月には、バルチスタン反乱軍の指導者がインドに入国し、亡命を申請している。

 バルチスタンにおける反乱軍の活動によってこの地域の治安情勢が不安定との情報が強調されれば「中国・パキスタン経済回廊」の信頼性が低下することが予想される

 もう1つの方法、中央アジア諸国がインド洋へ出るための別の貿易ルートを開拓するのは、日印による協力事業だ。ここにイランのチャーバハール港が登場する。

 この港はグワダル港にほど近いイラン側にある。つまり、中東からインドに向かうシーレーンは、先にチャーバハール港に着く。さらに、海底にガスパイプラインを敷設する。そうすると、モノも資源も、パキスタンをすっ飛ばして、イランからインドに直接つくルートを開発することができる。

 チャーバハールは既に中央アジアと道路でつながっている。鉄道を建設計画もある。治安も比較的いい。だから、中央アジアの国々が「中国・パキスタン経済回廊」を通らずに、インド洋に出ることができるようになる。

今がチャンスの日本外交

 このほかにも日本とインドが共同で進めている計画がある。インドが進めるチェンナイ=バンガロール産業回廊の構想は、チェンナイ港を通じて海洋の情勢にかかわるものだ。また、アンダマン・ニコバル諸島とラクシュイープ諸島では、発電所やレーダーの整備に取り組んでいる。アンダマン・ニコバル諸島はマラッカ海峡近くの戦略的重要地、ラクシュイープ諸島はインド南部に位置しておりシーレーン防衛上重要な役割を果たす。さらには、日印に加えて米国も巻き込んだ計画がアフリカ地域で進められている。

 これらを総合して考えると、日印関係は新時代を迎えているといっていい。日本はインドと共同で、アフリカを含むインド洋周辺から東南アジア、そして日本につながる一大経済圏の整備を目指している。そして、この地域の安全保障の確保にも深く関わり始めている。このような緊密な日印連携があるからこそ、インドは「一帯一路」構想との対決という決断に至ったのであろう。日本としてはこのチャンスを積極的に生かし、インドと世界規模の長期的な関係を築いていくべきといえよう。

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