実は今月、インドのモディ首相がスリランカを訪問した際にも、トリンコマリー港の石油タンクをインドとスリランカが共同管理することで合意している。石油タンクを管理すれば、寄港した船がどの程度燃料を受け取ったかわかる。行先や目的などが推測できるから、とても重要な合意だ。

 このトリンコマリー港と、中国が開発しているハンバントタ港とを比べると、トリンコマリー港のほうが不利な要素がある。ハンバントタ港がスリランカ南部を通るシーレーンのすぐ横にあるのに対して、トリンコマリー港は少し離れている。つまり、多くの船はハンバントタのすぐ目の前は通るが、トリンコマリー港の周辺には船があまり通らない。

 一方、利点もある。ハンバントタ港の失敗を見てから、トリンコマリー港の開発をスタートしている点だ。実はハンバントタ港は、港と飛行場が完成しているにもかかわらず、経済的利益を生み出していない。最も大きな原因は、港と空港が都市とつながっていないことだ。ハンバントタは田舎で、スリランカの大都市は首都のコロンボである。だから、船に積んだものを売りたければコロンボ港に寄港したほうがいい。

 そこで別の使い道を考える。インド、バングラデシュ、ミャンマー、インドネシア向けの荷を他の船に積み替えるハブ港として活用するならば、ハンバントタ港は役立つのではないか。しかし、これも期待薄だ。船員は、寄港したときぐらい町へ行きたい。町がない港はつまらない。結局みんな、ハンバントタ港ではなく、コロンボ港へ行ってしまう。

 トリンコマリー港も大都市コロンボとはつながっていない点では同じだ。しかし、日印はハンバントタ港の失敗を見て、大都市コロンボとつなぐことを考えている。コロンボ=トリンコマリー経済回廊構想だ。距離は直線距離で255㎞、東京=大阪間の約半分だ。現在はクルマで6時間、鉄道で8時間かかる。この時間を短くする。

イランにも新港、グワダル港をけん制

 日本とインドが進める3つ目のインフラ開発は、イランのチャーバハール港である。元々はインドが、イランのチャーバハールにある港の近代化を進めていた。これに日本が参加し、資金や技術面で協力する。日本がかかわる戦略的な背景は何か。やはり、中国の存在がある。

 中国は今、「中国・パキスタン経済回廊」の計画を進めている。中国軍がカシミールのパキスタン側に駐留して道路を建設しているのは前述の通りだ。この道路は、中国からカシミールを通ってパキスタン国内を南下、バルチスタン州のグワダルにたどり着く。そのグワダルで中国は港湾建設を進めている。

 「中国・パキスタン経済回廊」は、実は多分に軍事的な色彩を持っている。カシミールで中国軍が道路を建設しているだけでなく、グワダル港を警備するために中国軍は海兵隊1個旅団を派遣する用意をしている。また、パキスタン軍に警備艇をはじめとする武器を提供してグワダル港の警備を強化する。

 中国がパキスタンに輸出する潜水艦8隻についても関係している。これらの潜水艦は、グワダル港を封鎖する可能性のあるインド海軍の接近を阻止するのに役立つだろう。

 パキスタン軍の動きも顕著だ。「中国・パキスタン経済回廊」の道路を守るために、2016年、パキスタンは1万5000人(9000人の軍人と6000人の治安部隊要員で構成)からなるセキュリティ師団を創設している。今後、セキュリティ師団をさらに増設する計画だ。

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