政治的色分けの基準は何ですか。
高濱:通常、6つの分野で色分けされています。①刑事訴訟②公民権③憲法修正第一条(言論・報道、信仰の自由など)④組織・団体(労働組合問題など)⑤経済理念(連邦政府による規制権限、民間企業間の競争、大企業優遇、中小企業保護など)⑥連邦主義(連邦政府による課税権限、各州の権限など)です。こうした分野における基本姿勢が、今日的アジェンダである人種差別、同性愛合法化、人工妊娠中絶、移民難民をめぐる判断に反映されます。
セクハラ容疑で揺れた27年前のケースとの比較
上院司法委員会の様子を伺っていると、27年前の1991年のケースを思い出しますね。ジョージ・ブッシュ第41代大統領(父)が、黒人のクラレスン・トーマス連邦控訴裁判事を最高裁判事に指名。同氏が、教育省と雇用平等機会委員会で部下だったアニタ・ヒル氏(現在ブランダイス大学教授)に対してセクハラをした容疑が問題になりました。
高濱:上院司法委員会(ジョー・バイデン委員長。のちに副大統領)は91年9月10日、ヒル氏によるセクハラ告発を踏まえて非公式な尋問を行い、FBIに調査を要請しました。FBIは3日間調査をしたのち、その結果をホワイトハウスと司法委員会に報告。
報告内容は一切公表されていません。司法委員会はFBI報告を踏まえて人事承認案件を採決しましたが、7対7で結論が出ず。同委は結局、一切の「勧告」を付けずに本会議に送付。
本会議は賛成52、反対48の僅差で可決し、トーマス氏は判事に就任しました。当時の聴聞会のビデオをみると、委員会のメンバーは民主党も共和党も全員白人男性。質問もどこか高圧的なところが目立ちました。
現在の司法委員会の顔触れを見ると、民主党には女性が4人います。白人が2人。後は日系人、黒人とインド人の混血です。
トーマス氏に対するセクハラ容疑は、ヒル氏を何度も食事に誘ったり、ポルノ写真をみせたり、セックスの話をしたり、といったもの。「カバノー氏に対する性的暴行容疑に比べると若干弱い」(米主要紙記者)気もします。それに91年当時のセクハラ基準では、特に問題視されなかったのでしょう。今だったら、トーマス氏は判事になれなかったかもしれません。("Flashback: Anita Hill's Explosive Opening Statement." CNN. 4/13/2016 )
セクハラ告発の発端は女性教育官僚が出した一通の通達
米国ではいったい何が転機になってこれほどセクハラ追及が激しくなったのでしょう。
高濱:米主要紙の教育問題担当記者の一人は筆者にこう説明しています。「オバマ政権に教育省で公民を担当したロズリン・アリ副長官が11年4月に通達を出し、小中高校および大学でのセクハラや性的暴力に対する措置(学校当局は①被害を受けた生徒学生からの訴えを誠実に聞く、②学校内で事実関係を調査する、③その事案について公民権をつかさどる機関に即刻報告する、などを義務付けた)を徹底するよう指示したからではないか」
「これにより、それまで泣き寝入りしてきた学生や、大学に勤務する女性たちが当局に被害を届け始めた。関係当局も動かざるを得なくなった。告発の動きはキャンパスから外の社会へと広がった。そして社会現象となっていった」("Archived Information: United States Department of Education," Office for Civil Rights, 4/4/2011)
セクハラの告発は、それまで地位と権力をほしいままにしてきた社会の「大物」に向かったのです。ハリウッドの超大物プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン 氏や黒人俳優のビル・コスビー 氏らが告発されています。コスビー氏は9月、禁固3年から10年の量刑判決を受けました。
「今まで怖くて告発できなかったけど、みんなで一致団結すれば声を上げられる」として、被害を受けた女性たちが立ち上がっているのです。いわゆる「#MeToo」運動です。
ハリウッド、政財界、マスコミ界を直撃するセクハラ告発運動の波はなんと最高裁にまで押し寄せたのです。トランプ大統領もいくつもの告発や訴訟を受けています。カネと大統領の肩書のおかげで今のところ無事なようですが、いったん大統領を辞めたらどうなることかわかりません(笑)。
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