【例】ロシア国営企業「ロスアトム」はヒラリー氏が国務長官だった13年1月、米ウラン採掘会社「ウラニウム・ワン」(本社トロント)を買収した。ウランは国家安全保障上の戦略資源とされ、買収に際しては「外国企業対米投資委員会」の承認が必要だった。ヒラリー長官は同委員会のメンバー。同時期、「ウラニウム・ワン」のフランク・グストラ会長はクリントン財団に50万ドルの寄付をしています。たまたま時期が一致しただけとはどうも思えません。
"Cash Flowed to Clinton Foundation amid Russian Uranium Deal," Jo Becker, New York Times, 4/23/2016

【例】韓国人の張氏は、北朝鮮開城工業団地に進出した自社の工場内に教会堂を建てた際、献堂式でビル元大統領にスピーチをしてくれるよう、トニー・ロドハム氏に要請しました。ロドハム氏はヒラリー氏の末弟で、クリントン財団に出入りしていました。ロドハム氏は再三にわたり、ミルズ補佐官に働きかけました。外交関係のない北朝鮮に行くには国務省の特別の許可が必要だったからです。この件は、ミルズ補佐官が拒否したため実現しませんでした。

 張氏は1996年、ビル氏が大統領選で再選した時には10万ドルのご祝儀を出しています。ヒラリー氏が06年の上院選に再出馬した際には、韓国系米国人の知人を通じてヒラリー氏に10万ドルの政治資金を出しています。外国人からの政治献金は法律上許されていないためです。

 これらの政治資金はビル氏やヒラリー氏に直接送られたものでクリントン財団とは関係のない話と思われるかもしれません。しかし、前述のように、ビル氏に対する「開城スピーチ」の依頼は当時、財団のスタッフだったヒラリー氏の末弟から国務省に出されていました。少なくとも張氏はビル、ヒラリー氏と財団は表裏一体と考えていたわけです。
"Clinton Foundation pushed State Dept. on Bill Clinton speech in North Korea," Sarah Westwood, Washington Examiner, 8/16/2016

避けられないクリントン財団との完全断絶

ヒラリー氏はこれから「利益相反」疑惑にどう対処するのでしょうか。

高濱:クリントン財団との関係についてヒラリー氏はこれまで節目節目で手を打ってきました。

 国務長官に就任した際には、クリントン財団と自分との関係をはっきりさせるために国務省との間で「倫理協定」に合意しました。その際に同財団にカネを出す大口献金者のリストを公表しました。慈善団体ですので献金者リストを公表する義務はなかったのですけれども。いわば、「利益相反」に触れるようなことはしないという約束事です。もっともその協定があるにもかかわらず、今疑惑を呼んでいるわけですが…。

 2回目は、15年4月12日に大統領選に立候補した際のこと。財団はオーストラリアやカナダ、ドイツ、オランダ、ノルウェー、英国以外の外国政府からの寄付・献金は受け取らない方針を発表しました。つまり人権抑圧だとか、独裁体制だと言って批判される可能性のある中東諸国とは縁を切るというわけです。

 そして8月18日には、ビル元大統領が「ヒラリーが大統領に就任したのち、いかなる外国政府や企業からも寄付や献金は受け取らない」と明言しました。クリントン陣営は疑惑の火の粉が広がるのを抑えるのに躍起となっています。
"If Hillary Clinton Wins, Foundation Will Stop Accepting Foreign Donations ," Amy Chozick. New York Times, 8/18/2016

 ただ、これで押し寄せる疑惑をかわし切れるかどうか。

 ワシントンポストの著名な黒人コラムニスト、ユージン・ロビンソン氏は、ずばりこう指摘しています。「ヒラリー氏は大統領になる資格などまったくない男(トランプ氏のこと)と、今大統領選を戦っている。この男を大統領にしてはならない。彼女はこの選挙に絶対に勝たねばならない。だからこそ、後ろ指をさされるようなことはしてはならないのだ」。

 ヒラリー氏が、火の粉が広がる前に出来るだけ早く、クリントン財団との関係を断ち切ることができるかどうか。ここは正念場です。
"Hillary Clinton must learn from her mistakes," Eugene Robinson, Washington Post, 8/29/2016