その過程で北朝鮮は、首脳会談でも俎上に載った朝鮮戦争の終結宣言を出すよう改めて提案してきました。非核化協議と並行して協議しようじゃないかと言い出したのです。トランプ大統領による「現体制堅持」の口約束だけではやはり信用できなかったのですね。

 朝鮮戦争の終結宣言を出すことで、「トランプの牙」を抜こうとしたのです。戦争状態でなくなれば、むやみやたらに攻撃を仕掛けることはできないと見たのでしょう。

北朝鮮が保有する核施設の検証問題はこれまでの米朝間の協議でも難題中の難題でしたね。

高濱:その通りです。1994年の「枠組み合意」の時も、2003年の「6カ国協議」の時も、「検証」問題がネックとなり破綻しました。
参考:『北朝鮮の核問題をめぐる経緯』、国立図書館「調査と情報」、国立国会図書館調査及び立法考査局外交防衛課、久古聡美、内海和美、7/12/2018

 「検証問題」のポイントは、具体的には、北朝鮮が軍事基地に保有する核兵器を含めた査察ができるかどうかですね。北朝鮮とって軍事基地は、言ってみれば「国家の主権」が及ぶ最たる「聖域」です。すんなり受け入れるわけがありません。

 また一口に「検証」と言っても米国だけではできません。国連や国際原子力機関(IAEA)の関与が不可欠です。1~2カ月で済むようなものではなく、1~2年または数年かかる話です。

素人的は、米朝が和解すれば、当然、朝鮮戦争終結を双方が宣言してもおかしくないと思いがちです。

高濱:ところが、すでに指摘したように、北朝鮮の非核化をめぐって米国は苦い経験をしてきました。

 米国は、北朝鮮に「最終的かつ完全に検証された非核化」(FFVD=Final, Fully Verified Denuclearization)*をさせるためにはどうしても手放したくない「切り札」があります。「軍事力行使」という脅しです。それゆえ、朝鮮戦争終結宣言など容易に出すことはできません。

*:トランプ大統領は、米朝首脳会談を受けてポンペオ国務長官が7月上旬に訪朝した際に、それまで使っていた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID=Complete, Verifiable, Irreversible Denuclearization)という表現を取り下げている。外交専門家たちは「核兵器関連施設の完全破棄を「verify」(検証)することを最優先議題にするため米側がトーンダウンした」と見ていた。

 朝鮮戦争終結宣言を拒否することについてトランプ政権は一致団結しています。対北朝鮮強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も穏健派のジェームズ・マティス国防長官も慎重論を唱えています。

米国は「斬首作戦」をひそかに訓練?

話は元に戻りますが、金英哲副委員長はなぜ、ポンペオ国務長官の訪朝前に好戦的なことを言い出したのですか。ポンペオ国務長官はその前日、北朝鮮問題担当特別代表にスティーブン・ビーガン氏*を指名し、訪朝に同行させようとしていました。この時期になぜ出鼻をくじくようなことをしたのでしょう。

 ちなみにこの代表職はそれまで空席でした。ビーガン氏はフォード・モーターの副社長を務める人物です。

*:ビーガン氏はジョージ・W・ブッシュ政権で、コンドリーザ・ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の補佐を経験。トランプ政権でH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が解任されそうになった時には、その後釜に座ると噂されました。もともとロシア問題の専門家。朝鮮問題は門外漢なことから今回の人事は「次のステップ」に向けた腰掛との見方も出ている。

高濱:要は「来るな、来ても何の進展もないぞ」というわけです(笑)。

 金英哲副委員長はなぜ、労働党機関紙などを使わずに「秘密チャンネル」経由で「米朝協議は危うくなっており、瓦解するかもしれない」と警告したのか。

 ヒントは二つあります。北朝鮮の新聞報道です。一つは8月26日付の「労働新聞」。もう一つは同27日付の「統一新報」です。