トランプ大統領を支えていた2人は袂を分かった。ホワイトハウスを去ったスティーブン・バノン氏(左)とトランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏(右)
(写真:AP/アフロ)

「ホワイトハウスのラスプーチン」と呼ばれていた保守強硬派のスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問がついにホワイトハウスを去りました。あれから2週間、ウエストウィング(大統領行政府)の空気は変わりましたか。

高濱:トランプ政権が発足して以降ずっと続いていたホワイトハウスの内紛は、バノン氏が去ったことで一応収まりました。しかしこれでトランプ大統領とバノン氏との絆が完全切れたかというと、そうとは言えません。

 トランプ大統領にとってバノン氏は「アルタエゴ」(分身)であり、トランピズムの振付師でした。大統領補佐官(国家安全保障担当)を代えても、大統領首席補佐官を代えても、相手代われど、バノン氏との確執がつねに続いてきました。トランプ大統領としては、バノン氏を傍に置いておきたいのはやまやまでしたが、内紛を解消するため「泣いて馬謖を切る」といった感じです。

バノン氏自身は「1年間の契約が切れたので辞めた」と発言しています。強がりにも聞こえますが、実のところはどうなのですか。

高濱:辞めたバノン氏は「われわれ(つまりトランプと自分)の闘いは終わった。勝ち取ったトランプ政権は終わった」と言っています。なんとなく意味深な発言ですね。

 そのココロを、大統領選挙中からトランプ氏をフォローしてきた米テレビ局の記者が筆者にこう解説しています。「バノンが言いたかったのは、こういうことですよ。『俺とトランプとは、反エスタブリッシュメントを錦の御旗に苦しい選挙戦を勝ち抜き、政権を打ち建てた。ところが外様が次々に入ってきて、当時目指した理想の政権は様変わりしてしまった』」

 トランプ大統領自身、バノン氏にこう感謝の辞を述べています。「バノン君は、不正直なヒラリー・クリントン(民主党大統領候補)と私が闘っている真っただ中でわが陣営に参加してくれた。有難かった」

 ヒラリー優勢の状況において、戦略を立て、実施に移し、形勢を逆転させたのは軍師であるバノン氏でした。バノン氏はいわば、豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛です。

 トランプ氏が大統領に就任した後、バノン氏は首席戦略官・上級顧問としてトランプ大統領がやりたかった環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、地球温暖化防止の「パリ協定」脱退などを実現させました。しかし、その強烈な個性と妥協を許さぬ「野蛮人バノン」(Barbarian Bannonとホワイトハウス内では呼ばれた)は他の側近と衝突し続けました。

 バノン氏を「解任」するようトランプ大統領に助言したのはジョン・ケリー大統領首席補佐官です。ケリー首席補佐官がホワイトハウス入りしたことでバノン氏も少しはおとなしくなるかと思いきや、内紛は収まらず。

 側近の間のいがみ合い、対立を解消するには、どうしてもバノン氏に辞めてもらうしかないというケリー補佐官に加勢したのは、ジャレッド・クシュナー氏とH・R・マクマスター氏でした。クシュナー氏はトランプ大統領の娘婿。マクマスター氏は大統領補佐官(国家安全保障担当)です。いずれも、以前からバノン氏と対立していました。

 特に、穏健派とされるクシュナー氏とバノン氏は、イスラム圏6カ国からの渡航者の米入国一時禁止やメキシコ国境への壁建設で激しく対立してきました。一方、マクマスター氏とバノン氏はアフガニスタン増派をめぐって真っ向から対立しました。政策上の対立以上にどちらがトランプ大統領に影響力を与えるか、その確執の方が大きかったかもしれません。

 バノン氏は辞めた直後、クシュナー氏らを「ホワイトハウスに住み着く民主党系グローバリスト」とまで言って悪意をむき出しにしました。