まさに退路を断った感じすらしますが・・。

高濱  どうもメディアは「TPP賛成」か「TPP反対」か、といった感じで、短絡的に報道している気がします。

 賛成派だったティム・ケーン民主党副大統領候補(上院議員=バージニア州、元同州知事)も、「クリントン政権移行チーム」の委員長になったケン・サラザール前内務長官(元上院議員=コロラド州)も、TPPそのものについて反対と言ってきたわけではありません。オバマ政権下で合意した今のTPP協定に異議を唱えている、と見るべきです。

クリントンの本心はISDS条項の見直し

 TPPに詳しいテキサス大学オースティン校のレイチェル・ウェルハウセン准教授はこう説明しています。「TPPの草案は2015年春頃からワシントンでリークされ出した。同草案の中で、関係者の間でとくに注目されたのが第9条の「ISDS」条項(Investor-State Dispute Settlement、「投資家対国家の紛争解決制度」)だった」。

 「これは、外国企業や投資家に非常に大きな権力を与える条項で、国家が課す法規制が外国企業に将来的な損失を与えた場合(例えば知的所有権侵害などで)、その外国企業は国家を訴えることができるというもの」

 「TPP協定に盛り込まれたISDS条項にはこう書かれています。『外国企業による投資を保護するのは、経済成長を促進する手段として投資の流れを奨励し、促進するためだ。…(ただし)国家には公衆衛生、安全、環境、枯渇性天然資源、公共モラルなどを合法的に保護するために、(外国企業による投資を)規制する固有の権利を持つ』」

 「この条項をどう解釈し、具体的ケースが生じた場合、どのような裁定を下すのか。つまり、経済的目標と社会的目標とがぶつかりあった場合にどのように紛争を処理するのか、この点に疑義が生じているのだ」

 同准教授によれば、ISDS条項が盛り込まれるのはTPP協定が初めてではない。外国企業が政府を訴えることができる条項を含む協定は北米自由貿易協定(NAFTA)を含め約3000もあるという。

 実例では米大手たばこメーカーのフィリップ・モリスがウルグアイとオーストラリアの政府を訴えたケースがあります。紛争の原因は、両国政府が同社に課した規制は、知的所有権を侵害しており、両国での市場拡大を困難にしているというものです。
"People are freaking out about the Trans Pacific Partnership's investor dispute settlement system. Why should you care?" Henry Farrwll, Washington Post, 3/25/2016)

 参考までにTPP協定のテキスト全文(英語)へのリンクを付けておきます。問題のISDS条項にもアクセスできるようにしておきます。
("Text of the Pan-Pacific Partnership," New Zealand Foreign Affairs and Trade, 1/26/2016)
("Text of the Pan-Pacific Partnership," Chapter 9, Investment, New Zealand Foreign Affairs and Trade, 1/26/2016)

ISDS条項は元々、米国が入れたがっていたのではないでしょうか。米国がこれまで他国との間に締結してきた自由貿易協定(FTA)にはすべてこの条項を入れています。米企業はこの条項を活用して外国で裁判を起こしても、起こされたとしても、これまで負けたことがない、という話を聞いたことがあります。

高濱  確かに、米国はこれまで自国の法律を極力変えることなく他国と自由貿易協定を結んできました。ところが今回合意したTPP協定では、米国が自国の法律を一方的に振り回すことができなくなりました。日本がTPP協定交渉に参加を決めた際に日米両国政府の間で取り交わした「日米共同ビジョン声明」(2015年4月28日)が理由と言われています。

 同声明で両国政府は「グローバルな問題および我々の生き方の基礎となるルール、規範および制度へのコミットメントに則り、ルールに基づく強固な国際秩序を構築する」ためにTPPを締結すると明記しています。さらに「透明性が高く、ルールに基づき、斬新的なアプローチをコミットする」としています。

 つまり一つの国家(米国)が一方的に自国の法律を押し付けるのではなく、「お互いの国情や事情を十分考慮する」と解釈できる文言がTPP協定に盛り込まれたわけです。
("Japan-U.S. Joint Vision Statement," Ministry of Foreign Affairs of Japan, 4/28/2015)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page3_001203.html
(参考:「今更聞けないTPP--なぜアメリカはISDS条項で負けないのか」ASREAD. 3/26/2014)