つまり54%が「TPP反対」と公約する大統領候補に投票する、と答えているのです。「TPP賛成」と公約する大統領に投票すると答えているものは18%しかいないのです。クリントン氏が「政治的思惑で(TPP協定についての)立場を変えた」背景がここにあることが鮮明になってきます。

 まずこの大統領選挙に勝利せねばなりません。盤石の構えであと残りの70日を戦う必要があるのです。

合意したTPP協定はオバマからの「負の遺産」

 もしクリントン氏がオバマ大統領に仁義を切って、「私はTPP協定に賛成だ」と言ったとしたら、その直後から支持率は急降下するに違いありません。この意味においてTPP協定は、クリントン氏にとって「オバマからの負の遺産」なのです。

 クリントン氏は「変節」発言をする前にオバマ大統領に「事前連絡」したそうです。それに対して、オバマ大統領は「クリントン氏は彼女自身の政見に基づいて大統領選を戦っている」とコメントしています。オバマ氏も厳しい大統領選を潜り抜けてきた政治家です。選挙の「洗礼」を受けてきた強者です。クリントン氏の心情は痛いほどわかっているでしょう。

 オバマ大統領の胸の内を報道官はこう吐露しています。「大統領選の駆け引きは厳しく、個々の候補者は時として大統領との違いを際立たせねばならない」(アーネスト大統領報道官、2015年10月8日、定例記者会見で)

 2つ目の理由は、クリントン氏のTPP合意条項についてのスタンスです。同氏はTPP全体について反対しているわけではありません。合意した条項に瑕疵があると言っているのです。いわば「総論賛成、各論反対」です。

 難交渉をまとめたのは、オバマ大統領の「懐刀」、マイケル・フロマン通商代表部(USTR)代表です。ハーバード法科大学院でオバマ大統領と同期だった敏腕弁護士で、2008年にはジョージ・W・ブッシュ政権から政権を受け継ぐ「オバマ移行チーム」の幹部の一人でした。

 TPP協定交渉に携わった関係筋は、筆者にこう述べています。「オバマ大統領は『TPP協定の詳細について微に入り細に入り知っているわけではないが、私はフロマンのやっていることに全幅の信頼を寄せている』と言っているのを聞いた」。

 つまり、TPP交渉はまさに「オバマ=フロマン・ライン」で進められたわけです。交渉の詳細についてクリントン氏は直接タッチしていなかった。クリントン氏は、国務長官として他のアジェンダで手一杯だったわけで当然と言えば当然です。

 TPP交渉は2008年1月に始まり、協定草案ができ上がったのは2015年10月、12か国代表が協定に署名したのは今年2月4日、米国が交渉を開始してから12か国が協定に署名するまでには丸8年間かかりました。

 クリントン氏が国務長官を務めたオバマ第1期政権では合意にいたりませんでした。つまりTPPの詳細についてクリントン氏はあずかり知らぬことでした。国務長官を辞めたあと、クリントン氏はTPPについて一切の発言を避けてきました。

 そして今年4月13日、クリントン氏は大統領選に正式に立候補しました。同氏がTPPについて長官辞任後初めて言及したのは、8日後の4月21日。TPP協定署名から2か月半たってからです。

 記者の質問に答える形でこう述べました。「どんな(貿易)協定も雇用を創出し、賃金を上昇させ、繁栄を拡大しなければならない」。

「TPP反対のふりをしているクリントン」

 その後のクリントン氏の発言を時系列的にみていきます。
「(TPPについては)合意協定文をよく読んだうえで判断したい」(5月19日) 「オバマ大統領は(TPPの内容について)懸念を表明している議員たちの意見を聞くべきだ」(6月14日)

 これに対してトランプ氏は、クリントン氏が国務長官当時、TPPの旗振り役だったことを指摘して、「クリントン氏はTPP反対のふりをしているだけだ」(6月22日)と激しく批判し始めました。トランプ氏は、8月8日には自動車産業の集積地、デトロイトでさらにクリントン批判をエスカレートさせました。「TPPを承認すれば、外国製品が流入し、破滅的な規模で雇用が失われる。クリントン氏はこれまでTPP賛成の立場をとってきた。本心はTPP賛成。大統領になればTPP支持に回るに決まっている」。

 これに対してクリントン氏は、11日、デトロイト近郊で演説し、「私はTPP協定を含め、雇用を悪化させ、賃金を低下させる貿易協定をストップさせる。選挙後も大統領に就任してもTPP協定には反対する」とまで言い切りました。