クリントンは「TPP反対」ではなく、「TPP協定反対」だ

そのクリントン氏がなぜ、そして、いつ頃から「TPP反対」に心変わりしたのでしょう。

高濱  長い交渉の結果、12か国は今年2月4日、TPP協定に最終合意し、署名しました。
 クリントン氏がこの合意後、初めてコメントしたのは7月13日です。それ以降、現在に至るまでほぼ同じ文言のコメントが続いています。

 「私たちは高いハードルを設置する必要がある。(協定内容が)雇用を創出し、賃金を上げ、安全保障を増進する協定でなければならない」

 クリントン氏は「TPP反対」といっても、TPP協定自体について反対しているのではありません。部分的に反対なのです。もっとも同協定のどの条項に反対なのか、現段階では具体的な言及はしていません。

 9月26日から始まるトランプ氏との公開討論会の席上で明らかにするのか、どうか。あるいは大統領選が終わるまで具体的な言及は避けるのか、そのへんは今のところ予測できません。

54%が「TPP協定に反対を公約する大統領候補」を支持

 クリントン氏が現段階で「TPP協定反対」を唱えている理由は2つあります。一つは、合意したTPP協定についての米国内世論を無視できなくなったからです。

 クリントン氏は2015年10月13日、遊説先のネバダ州でこう述べています。「TPPは私の基準を満たしていない。政治的な思惑で(TPP賛成の)立場を変えた。私の(TPPに対する考え方は)終始一貫しているが、新しい情報を取り入れている。中間層の米国人の目から見て、賃金が上がると言えるようにしたい。(合意したTPP協定では)それができないと結論づけた」

「政治的思惑」とはなんですか。

高濱 大統領選を勝ち抜くために有権者の考えを最優先することです。米国では労組や消費者はもちろん、大企業も合意したTPP協定にはこぞって反対しています。

 米国でも交渉過程については外交上の約束事(基本的未公開)もあり、全容は米国民に明らかにされていません。ただリークを基にメディアが断片的に報道はしています。

 TPP協定についての米国民の理解は若干深まりました。今年3月20日に公表された世論調査で「TPP協定について知っているか」を尋ねたところ、「知らない」「ほとんど知らない」が62%を占めました。これが8月20日公表の世論調査では51%に減っています。
("The Trans-Pacific Partnership trade deal: Public opinion on TPP and TTIP," Ballotpedia.org.)

 こうした中で「TPP協定から撤退し、米国内の雇用を優先すると公約した大統領候補に投票するか」との質問に対する米国民の答えはどうだったでしょうか。結果は以下の通りでした。
「投票する」          24%
「どちらかと言えば投票する」  30%
「どちらかと言えば投票しない」 12%
「投票しない」         6%
「わからない」         29%
("National Voter Online Survey," Caddell & Associates, 2/23-3/3/2016)