つまり、これまでの表現と比較すると、「complete」と「irreversible」がなくなり、その代わりに「final」と「fully」が入りました。「verified」は残ったままですが、米側の要求がトーンダウンしています。

 その心は、「北朝鮮が主張してきた『行動対行動』の原則を米側が受け入れる。その第一歩として『検証』から始めようではないか」という誘い水のように思えます。「行動対行動」とは、相互の要求事項を満たしながら非核化を進めるということですね。

 それでも北朝鮮は「ギャングのような要求だ」と言っています。このへんは今後の交渉に向けた北朝鮮なりの戦略かもしれません。何しろトランプ大統領にとって北朝鮮の非核化は唯一最大の外交上の成果ですから、北朝鮮が多少「拗ねて」も断念するわけにはいきません。ロシアゲート疑惑捜査の状況も同大統領にとって芳しいものではなく、内憂外患の状態にあります。そのへんを北朝鮮は十分に承知していて揺さぶっているのでしょう。

根っこにあるのは米朝間の「歴史的な相互不信感」

米朝首脳会談以後も「北朝鮮は核を放棄していない証拠」が衛星画像や米情報機関からの極秘情報で明らかになりましたね。

高濱:ポンペオ長官は金英哲副委員長にこの衛星画像を見せて北朝鮮の非核化に向けた本心をただしたようです。北朝鮮が「ギャングのような」と表現したのはこのことを指しているのかもしれません。米側から北朝鮮に対する「一種の恫喝」です。

 もっとも北朝鮮にしてみれば、米朝首脳会談は非核化に向けての原則を合意しただけですから(非核化の具体的な段取りについてはまだ合意していない)、これまで続けてきた核・ミサイル開発を完全に停止していなくても文句はあるまい、ということでしょう。

 北朝鮮の核開発の動向に詳しいアダム・マウント博士(全米科学者連盟)は、ミドルベリー国際大学院(MIIS)が撮った衛星画像や米情報機関が入手した極秘情報などを基に米朝首脳会談以後の動きをこう分析しています。

  1. 北朝鮮はこれまでに核兵器1発を破棄し、ミサイル発射実験施設1カ所を取り壊したに過ぎない。
  2. 北朝鮮は核兵器製造に必要なウラニウム、プルトニウム、トリチウムを増産する一方で、固定燃料型の弾道ミサイル製造拠点を拡張する工事をほぼ完了させている。
  3. 北朝鮮は、核兵器を廃棄する工程への検証を拒み続ける一方で、保有する核兵器の隠蔽を計画している。

(Adam Mount, "To summarize where we find ourselves now on the "denuclearization" of North Korea," Adam Mount of the Federation of American Scientists, 7/1/2018)

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