これに対してバリー・ゴールドウォーター上院議員(アリゾナ州選出)は、議会の承認を経ることなく一方的に国際条約を破棄するのは憲法違反だとして連邦裁に提訴しました。同議員は共和党タカ派で、1964年の大統領選で共和党の候補になっています。

 最高裁はこれについて「政治的問題だ」として審理を拒否しました。米議会もとくに抗議をしませんでした。つまり最高裁は「大統領が議会の承認なしに条約を破棄できるか否か」について判断を下さなかったのです。

 その後2002年、ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領がソ連との「弾道弾迎撃ミサイル制限条約」(ABM条約、1972年締結)を議会の承認なしに一方的に破棄しました。最高裁はこれが憲法違反に当たるかどうかの判断も一切しませんでした。

 つまりトランプ大統領が対日防衛の分担増額を日本に迫り、日本がこれを拒否し、その結果、トランプ大統領が議会の承認なしに日米安保条約を一方的に破棄したとしても、連邦裁は介入しないという事態になりうるわけです。むろん日米安保条約は、締結国が一方的に破棄するには、1年前に通告することを義務づけています。

トランプ大統領は日米安保条約を独断で破棄できるか

しかし米国内には、「日米安保条約は米国の極東政策にとって必要不可欠」といった超党派的の認識がありますよね。その条約をトランプ大統領が独断で破棄すると言い出せば、「国際常識を無視した外交だ」とか「国益を損じかねない」といった批判が高まるでしょう。米議会で大統領を弾劾する動きが出てくるのではないでしょうか。

高濱:ずいぶん話が飛躍しましたね(笑い)。そうした動きは出てくるかもしれません。可能性としてですが。

 大統領を弾劾するには、まず下院本会議において弾劾の是非を審議し、単純過半数の賛成を得る必要があります。その後、上院において弾劾審議を行い、出席議員の3分の2が賛成すれば弾劾が決定します。これにより大統領はその職を解任されます。

 これまで弾劾されかけた大統領は、アンドリュー・ジョンソン第17代、リチャード・ニクソン第37代、ビル・クリントン第42代各大統領の3人だけです。

 ジョンソン大統領は奴隷解放に伴い、黒人に市民権を与える法案に拒否権を発動したため議会から弾劾訴追されました。

 ニクソン大統領はウォーターゲイト事件の絡みです。同事件の解明を妨害したとして、下院司法委員会が1974年、司法妨害、権力乱用、議会侮辱を理由に訴追勧告を決定しました。この勧告に従って下院本会議が訴追決議をする直前に辞任しました。

 クリントン大統領は、ホワイトハウスのインターンだったモニカ・ルインスキーさんとの「不適切な関係」が大統領の「品格」にかかわると問題になり、弾劾訴追されました。

 ジョンソン氏もクリントン氏も、下院本会議は訴追を決議したものの、その後に行われた上院での弾劾審議で無罪となっています。

 問題は、どのような行為が弾劾の対象となるかです。米国憲法第2条第4節は、こう記しています。
 「大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪またはその他の重罪および軽罪につき弾劾され、かつ有罪の判決を受けた場合は、その職を免ぜられる」
("High Crimes and Misdemeanors," Constitutional Rights Foundation, www.crf-usa.oprg)

「トランプ大統領」を米議会は弾劾できるか

トランプ大統領が日米安保条約や米韓相互防衛条約を破棄したり、北大西洋条約機構(NATO)から離脱したりした場合、「国益を著しく損なった」として弾劾される要因になりますか。

高濱:その判断は、その時の米国内外の世論や議会の動向に大きく左右されるでしょう。