綱領でサンダースに大きく譲歩したクリントン

民主党綱領の最終草案を入手されたそうですね。サンダース氏の主張はどう扱われているのでしょう。

高濱:サンダース氏の主張が列記されています――(1)反トラスト法に基づく法的制裁(2)官僚の天下り禁止(3)米企業の海外留保利益に対する課税延期の停止(4)製薬会社に対する薬価統制。

 最終草案は、大企業を厳しい文言で批判しています。「大企業は過去数十年、米国民が見てきた以上に市場を集中支配してきた。富は大企業のトップに蓄積されてきた証左がある」。これはサンダース氏が予備選当初からで終始一貫主張してきた内容です。これを受けて、上の具体的な政策が挙げられています。

 盤石の態勢で本選挙に臨むため、クリントン氏としても、サンダース氏の主張を無視するわけにはいかなかったのでしょう。リベラル派のサンダース氏は、若年層を中心に予備選で根強い支持を獲得しましたから。

 注目のTPP問題について、最終草案は「党内には多様な考え方がある」と記すのみで、党としての明確な対応を打ち出してはいません。

 しかしサンダース氏はTPPに最初から反対しています。クリントン氏は6月27日、オハイオ州で行った演説で、「TPPのような悪い貿易協定には『ノー』を突きつけ、米国の雇用と労働者を守る」と明言しました。

 党大会で採択される綱領にはTPPについてネガティブな姿勢を明確にした表現が盛り込まれる可能性が十分ありそうです。もっともTPPを推進してきたオバマ大統領のメンツもありますから、そのへんはどうなることか。

 大統領がクリントン氏になってもトランプ氏になっても、ことTPP問題は、これを推進してきた安倍晋三首相にとって憂慮すべき事態になりそうです。一部の条項を再交渉する可能性だってあります。

ところで民主党綱領委員会のトップはどんな人たちですか。

高濱:委員長は、有望女性議員の一人、デビー・ワイザーマン・シュルツ下院議員(フロリダ州選出)です。06年の選挙の際には選挙資金1700万ドルを集めました。これは党内で第3位。現在、下院民主党の院内副幹事を務める党内主流派です。

 副委員長は二人います。一人はダニエル・マロイ コネチカット州知事。クリントン派の実力知事です。もう一人は黒人女性のシャーリー・フランクリン アトランタ市長。彼女もクリントン支持者の一人です。

 綱領委員会トップはクリントン支持の党内主流派が牛耳っているといえます。それでもサンダース氏の主張を大幅に取り入れたのは、「党内結束を狙った、背に腹は代えられぬ高等戦術」(米主要紙政治記者)といった見方があります。

トランプの一方的決定に米議会は阻止する手段はあるのか

話を共和党に戻したいと思います。これはあくまで仮説ですが、トランプ氏が大統領になり、日本や韓国に防衛分担の増額を求めてきたとします。米国防総省と国務省の当局者は反対でしょうが、大統領命令ですから仕方ありません。対日・対韓交渉を開始するでしょう。

 その後、交渉は決裂。トランプ大統領は日米安保条約や米韓相互防衛条約を破棄しようとします。その場合、米国の議会や裁判所はこれを阻止する手段や権限を持っているのですか。

高濱:イエス・バット・ノー(Yes but No)です。

 イエス、の意味はこうです。
 トランプ大統領があまりにも理不尽な政策を打ち出し、四面楚歌の状況に追い込まれたとします。米世論を敵に回すような事態になったら、イエスです。

 大統領には法案を提出する権限はありません。法案の提出、採決する権限を持つのは米議会です。大統領は拒否権を行使することはできますが、上下両院本会議がそれぞれ出席議員の3分の2以上の多数で再び採択すれば、大統領の拒否権は覆されてしまいます。

 議会において野党・民主党はもとより与党・共和党もトランプ大統領の政策に反対しているとなると、法案に「大統領はかくかくしかじかを条件に…」といった前提条件を付けるでしょう。その意味では立法府には大統領の一方的な決定を阻止する手段はあります。

 ただし、大統領が条約を破棄するに際して、議会に立法を求めるとは限りません。このケースだと答えはノーとなります。

 前述のカーター大統領時代のことです。同大統領は米中国交正常化に踏み切ったニクソン前政権の尻拭いとして、台湾との間に結んでいた米華相互防衛条約を処理しなければなりませんでした。そして同条約を一方的に破棄。