
米朝首脳会談が終わりました。米国内の反響はどうですか。
高濱:米国のテレビはドナルド・トランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長との歴史的握手の瞬間を中継で報じました。
新聞各紙の電子版は両首脳が握手をした6月12日午前9時(日本時間同10時)直後、「歴史的な出会い」とか「北朝鮮の国家元首と会談する最初の米大統領」といった見出しをつけていました。
しかし米朝首脳会談が終わり、共同声明が出るや、具体策に欠ける点を厳しく指摘しています。「非核化がすぐ始まるとしているが、その詳細には触れていない」(米ニューヨーク・タイムズ)。「米国が求めてきた完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)を実現させるプロセスに言及していない」(米ウォール・ストリート・ジャーナル)。
トランプ大統領の記者会見の模様を、筆者と一緒にテレビで見ていた口の悪いリベラル派の米ジャーナリストはこう言いました。「両首脳はこの瞬間を作るだけで、今回の会談の目的の8~9割は達成できたと思ったのではないか。ところがどっこい、メディアはそう簡単には騙せないよ」
トランプ大統領は「記念撮影だけには終わらせたくない」と言っていました。そんなことを言ったのは、両首脳が握手する場面が世界中に流れることをやはり意識していたからなのでしょうね。なにしろ、ご自身でショー番組の企画制作出演をしていた御仁ですから。
余談ですが、トランプ支持を鮮明にしている保守系のフォックス・ニュースの女性アンカーのエビィ・ハンツマン氏が会談直前にこんなリポートをしてしまいました。
「二人の『独裁者』による米朝首脳会談。その結果がどうなろうともこれは歴史です」とやってしまったのです。放映直後、この女性アンカーはツイッター上で平謝りしていました。
ただし、金正恩委員長は、人権抑圧政策を続ける世界に冠たる独裁者。一方のトランプ大統領も大統領特権を使ってまでロシア疑惑捜査を阻止しようとする「独裁者」です。女性アンカーの発言は言いえて妙でした(笑)。トランプ大統領は北朝鮮の人権問題について厳しく批判するようなことはしませんでしたから。
米一般市民は「歴史的会談」にも関心なし
米朝首脳が握手する光景をテレビで見て、米国民はエキサイトしたでしょうね。
高濱:それが、そうではないのです。人にもよりますけど。日本や韓国のように国を挙げて、という感じではありません。
騒いでいるのはメディアだけ、などと言うと叱られるかもしれませんが(笑)。筆者が住んでいるロサンゼルス近郊の市民に聞いてみたところ、米朝首脳会談にあまり関心はないようです。
都会だからそうなのかもしれないと思い、中西部のアパラチア山脈地域に住むベイカーさん(55歳、零細農業経営者)に電話で聞いてみました。同氏は中低所得の白人層の典型です。
彼はこう答えました。「テレビは見ない。さっきラッシュ・リンボー*のラジオで知った。6600マイルも離れているアジアの国の独裁者が核兵器を持とうが持つまいが、俺らには関係ないよ。わが大統領が『リトル・ロケットマン』(トランプ大統領がかって金正恩委員長を小ばかにしてこう呼んでいた)に会おうと会うまいと俺の生活には無関係だしね」
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