ニクソン大統領以後の7人の大統領は、録音テープなど残しておくと、いつ裁判所や議会が提出を要求するかもしれないと止めていたんです。これに対してトランプ大統領は就任後4か月というのに録音装置を仕掛けていた可能性を自らばらしてしまった!メディアが騒がないほうがおかしいわけです。

 ニクソン大統領の場合、この録音テープの存在が明らかになったため、コックス特別検察官がそのテープの提出を求めました。ニクソン大統領はこれを拒否したものの、結局、最高裁がテープの提出を命じました。

 その結果、ニクソン氏がウォーターゲート事件のもみ消し工作を側近に指示していることが明らかになります。このあと、議会での弾劾決議、そして辞任(74年8月)と、急な坂道を転げ落ちるように動きが加速しました。

ウォーターゲートよりもマグニチュードは大?

疑惑を捜査する捜査機関の最高責任者の首を切ったり、大統領執務室に録音装置を仕掛けたりする。トランプ大統領は、ニクソン氏と相通じるところが大ありですね。

高濱:その通りです。「ウォーターゲート事件」を長年研究してきたテキサスA&M大学のルーク・ニヒター教授はこう述べています。「ニクソンは誰にも分らないように秘かに自分のテープに録音していた。(トランプ大統領は録音していることを正々堂々示唆している点で)ニクソンの録音テープ(が政治と社会に与えた影響)よりも比較にならないほどマグニチュードが大きい」。録音テープの存在を仄めかすだけでなく、そのテープを、解任したコミー氏の口封じに使うことを示唆しているわけですから。同教授は、トランプ大統領の神経の図太さにあきれ返っているわけです。
(’"Trump Warning to Comey Prompts Questions on 'Tapes'" Peter Baker and Michael D. Shear, New York Times, 5/12/2017)

 これに対してコミー前長官も黙ってはいません。NBCテレビの質問に答えて「私は何らやましいことなどない。トランプ大統領と私との会話を録音したテープがあるというなら結構なことじゃないか」と発言し、一歩も引く気配を見せていません。
("Trump's warning to Comey deepens White House crisis," Jordan Fabian, The Hill, 5/12/2017)

FBI長官の後任候補に上院共和党ナンバーツーら6人の名

今後は、どのような展開になるのでしょう。いわゆる「ロシア・コネクション」(トランプ政権とロシアとの怪しげな関係)疑惑の追及はどうなりますか。

高濱:トランプ大統領はあくまで強気で、FBI長官の後任人事に取り掛かっています。

 大統領側近筋によると、後任リストにはジェームズ・マッカビーFBI長官代行、上院共和党ナンバーツーのジョン・コーニン院内幹事、アリス・フィッシャー元司法副長官、マイケル・ガラシア元ニューヨーク控訴裁判事、マイク・ロジャー元下院議員、レイ・ケリー元ニューヨーク市警コミッショナーの6人の名前が上がっています。

 元FBI高官の一人は、ロイター通信の司法担当記者に「後任リストはカタストロフィック(Catastrophic=破滅的)だよ」と述べています。

 おそらく、「カタストロフィック」はダブル・ミーニング(掛詞)だと思います。一つは、トランプ大統領がこのリストの中から誰を任命したとしても、後任長官として議会が承認するかどうかわからない、という意味。

 もう一つは、このリストは、「ロシア・コネクション」疑惑をめぐり、トランプ政権がカタストロフィックな状況に陥る可能性をシンボリックに暗示しているという意味です。つまり、大統領に忠誠を誓って任命された後任長官が議会の承認を得るには「ロシア・コネクション」疑惑を解明すると宣誓せざるをえません。となれば、新長官は議会・世論と解明阻止を狙う大統領との「板挟み」になってしまいます。宣誓した通りに職務を遂行すれば、大統領を裏切ることになる。すると、トランプ大統領は新長官をまた解任する。トランプ政権そのものがカタストロフィックな状況に陥るでしょう。
("The Coming Comey Succession Crisis," Steve Valdeck, Just Security, 5/11/2017)