トランプは日中の為替操作を批判

北朝鮮のミサイル実験についてはどうですか。

高濱:各候補者は北朝鮮による挑発行為を厳しく批判しています。しかしながら、クリントン氏がより一層厳しい経済制裁措置をとるよう提案している以外、他の候補の発言に具体的なものはありません。

 トランプ氏は「北朝鮮をコントロールしているのは中国だ。北朝鮮は中国なしには飯も食えない。北朝鮮の行動をやめさせるのは中国の責任だ」と批判。クルーズ氏は「北朝鮮に核武装させたのはオバマ政権だ。クリントンとオバマは対北朝鮮外交で過去に何度も失敗をおかしてきた」とこき下ろしています。

トランプの時代錯誤な対日批判に米識者も辟易

対日政策ではトランプ氏が抜きんでて強い対日批判を繰り返しているようですね。

高濱:その通りです。トランプ氏の対日批判について米ニューヨーク・タイムズ(3月7日付)が「トランプ、80年代の対日通商の長広舌を持ち出して日本を手ひどく批判」という見出しで報じています。
("Donald Trump Laces Into Japan With a Trade Tirade From the '80s," Jonathan Soble and Keith Bradsher, New York Times, 3/7/2016)

 記事は、米通商代表部(USTR)の副代表だったグレン・フクシマ氏の次の発言を引用しています。「トランプ氏の対日発言は70年代後半から90年代中葉、卓越した米国の経済力を脅かすライバルと日本が見られた時期を思い出させる。日本経済が20年にわたる不況に見舞われたにもかかわらず、米国の雇用を掠め取る経済的ライバルとしてよみがえっていると考えていること自体、興味深い」。

 トランプ氏は日米安保体制の在り方についても「もし日本が敵に攻撃されたら米軍は応援にいくのに、米国が攻撃されたときに日本は支援しない、というのは片務的だ」と言い出しています。さらに、中東から日本に原油を輸送するタンカーを守っているのは米軍だとして「そのカネは日本が払うべきだ」とも言っています。

 まさに70年代から80年代に米国を席巻した「ジャパン・バッシング」(日本叩き)を21世紀中葉になって持ち出しているわけです。

 たまりかねたゼーリック前世銀総裁など100人の共和党系外交・安全保障問題専門家が3月3日に共同書簡を発表して、「トランプ氏の日本へ対する防衛対価要求はゆすり以外の何物でもない」と厳しくいさめています。

 トランプ氏の時代錯誤な対日批判に共和党系の学識経験者も辟易としているのです。

なぜ、トランプ氏はこんな発言をするのでしょうか。

高濱:トランプ氏は日米安保体制や通商問題について詳しいわけではありません。

 不動産ビジネスの経営者として耳にしたことやビジネス関係者たちとの話しの中で出てきた「対日不満」をストレートにぶちまけているだけです。それを、中学生でもわかるような表現でアジ演説するので、愛国心に燃えた比較的教育程度の低い一般大衆には受けるわけです。

 大統領になったときに日米同盟関係をどう堅持、強化していくのか、といったステーツマンとしての自覚など今の段階ではないということなのでしょう。

 しかしトランプ氏もやっと外交ブレーンを集めたようですから、今後はもっと冷静で理路整然とした対日政策を打ち出すことを期待したいところです。

トランプ外交ブレーンはテロやエネルギーの専門家

外交・安全保障、通商問題が予備選中盤に入ってにわかにクローズアップされてきました。各候補者にアドバイスしているブレーンにはどんな人たちがいますか。

高濱:トランプ氏の外交ブレーンを総括しているのはアラバマ州選出のジェフ・セッションズ上院議員です。

 外交チームのメンバーは、まずレバノン生まれで米国に帰化したウォリッド・ファレス博士。反イスラム教でキリスト教信者です。それから米メリルリンチのパートナー、カーター・ページ氏。石油エネルギーの専門家、ジョージ・パパドポウリス氏。元国務省査察官のジョー・シュミット氏、それからケネス・ケロッグ米空軍退役中将らです。

 対日、対アジア政策の専門家は今のところ見当たりません。
("Donald Trump names foreign policy advisors," Philip Rucker and Robert Costa, the Washington Post, 3/2/2016)

クルーズ陣営には「イラン・コントラ事件」関係者が復活

 クルーズ氏の外交ブレーンは、レーガン政権やジョージ・W・ブッシュ政権で外交安保政策を担当したネオコン(新保守主義派)のメンバーが名を連ねます。徹底したイスラム教嫌い、オバマ嫌いの保守強硬派の人たちです。

 超保守派シンクタンクの米センター・フォア・セキュリティ・ポリシーを創設したフランク・ガフニー氏がその中心。さらに、エリオット・アブラムス外交問題評議会研究員、フレッド・フレイツ元CIA分析官、アンドリュー・マッカーシー「センター・フォア・ロー&カウンターテロリズム」理事長たちが名を連ねます。

 アブラムス氏は、レーガン政権の時、イラン・コントラ事件に直接関与した人物の一人です。イラン・コントラ事件とは、国家安全保障会議(NSC)がイランに対し、85年夏から86年秋にかけてイスラエル経由で対戦車ミサイルや対空ミサイルを秘密裏に輸出し、その代金の一部をニカラグアの反政府右派ゲリラ「コントラ」への援助に流用していた事件です。米国は当時、イランを「テロ支援国家」リストに載せており、武器の輸出は法的に禁じられていました。この事件は、高い人気を誇ったレーガン大統領の統治能力の欠如を浮き彫りにしたものでした。
("Here Are Five of Ted Cruz's Most Fanatical Foreign Policy Advisors," Sara Lazare, Alternet, 3/17/2016)

クリントンは東アジア政策にキャンベル元国務次官補

国務長官を務めたクリントン氏の外交チームは、大統領候補者の中では一番規模が大きく、充実しているそうですね。

高濱:その通りです。総括者はオバマ政権で国家安全保障担当大統領副補佐官を務めたジェイク・サリバン元プリンストン大学教授です。ヒラリー・クリントン大統領が誕生すれば、国家安全保障担当大統領補佐官になると噂されています。

 同氏を軸にシニア・グループがあり、そのメンバーはレオン・パネッタ元国防長官、トム・デニロン元国家安全保障担当大統領補佐官、ミシェル・フロノイ元国防次官(政策担当)、マデレーン・オルブライト元国務長官たちです。

 その下に、国・地域別、政策別などに分かれたサブ・ブループがあります。アジア、欧州、中東などから人権問題、テロ、サイバーなど、国務省さながらに細分化されています。

 対日、対中政策ではクリントン国務長官の下でアジア政策を取り仕切ったカート・キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が控えています。ということはクリントン政権の東アジア政策はオバマ政権を踏襲することを意味しますね。

 関係者の一人は筆者に「サブ・グループは現在進行形のベトナム選挙からベルギーの連続テロまで最新情報を入手して分析している。その結果がクリントン候補の演説や記者会見にも反映している」と指摘しました。

 一方、対抗馬であるサンダース候補の外交ブレーンには、ローレンス・コーブ氏やレイ・テケイ博士らが名を連ねています。コーブ氏は、リベラル派シンクタンクの「センター・フォア・アメリカン・プログレス」の研究者。テケイ博士は、外交問題評議会に籍を置く、イラン系米国人の中東専門家です。

 クリントン氏の外交チームに比べると規模的にも質的にもちょっと見劣りがします。
("Inside Hillary Clinton's Massive Foreign-Policy Brain Trust," John Hudson, Foreign Policy, 2/10/2016)