トランプ氏はISのテロについて、「拘束したテロ容疑者から情報を得るために水責めなどの厳しい尋問をするべきだ」と発言しました。これに対し、マイケル・ヘイデン元CIA(中央情報局)長官が反論すると、「三軍の最高司令官が命じたら軍は従うべきだ」と制した。しかし、「拷問」が国際法(国連拷問等禁止条約=1987年採択)に違反していることを指摘されると、渋々撤回しました。

 ベルギーの連続爆破テロが起こると、「(法が許すなら)水責め以上のことをやる。(テロリスト容疑者から)情報を引き出す必要がある」と言い出しました。朝令暮改の繰り返し、です。

 民主党の指名を狙うヒラリー・クリントン候補は、さすが国務長官を経験しているだけに「水責めのような拷問に頼るべきではない。テロとの戦いは他の同盟国と一致協力して行うべきだ」とトランプ氏を批判しています。

 米主要シンクタンクの上級研究員の一人は筆者にこうコメントしました。「予備選の最中に大きな外交事案が出てくるのは良いことだ。各候補者のステーツマンとしての力量が白日の下にさらされるからだ。このトランプという男の発言は、外交が未経験であるというだけではない。何か大事件があるとすぐ感情的に反応する一般大衆を代弁している、いや、彼自身がその一般大衆の典型的な一人にすぎない」。

共和党の保守強硬派のクルーズ氏はどのような反応を示していますか。

高濱:クルーズ氏は「もし自分の住んでいる街に(イスラム過激派分子のような)不穏な行動をとる可能性が大きいグループがいるなら、治安当局による監視を一層強めるべきだ」と述べています。これはイスラム教徒が密集して住んでいる地域に対する警察の監視・警戒態勢を強化することを意味しています。具体的には電話・インターネットの盗聴から警官による24時間パトロール体制を考えているようです。

 これに対しオバマ大統領は、訪問先のアルゼンチンで記者会見し、「こうした提案(クルーズ氏の提案)は間違いであり非米国的だ。米国が行ってきたイスラム教過激派対策を弱体化させるだけだ」と激しく批判しています。

 クリントン氏も23日、スタンフォード大学で行った演説で、イスラム教徒密集地域で監視・警戒態勢を強化することに真っ向から反対しました。返す刀でトランプ氏が主張しているイスラム教徒の米国入国禁止案や「水責め」実施に反対し、「口先のレトリックで我々の共有する価値や安全を強化することはできない」とトランプ、クルーズ両氏の主張を退けています。

 テロ対策をめぐる民主、共和両党の意見の食い違いは、本選挙での一つの大きな争点になりそうです。
("Clinton at Stanford: Global alliances key to ending terrorism," Clifton B. Parker, Stanford News, 3/23/2016)

 指名に向けて一歩一歩前進しているクリントン氏は、ここにきて、対抗馬のバーニー・サンダース上院議員との論争ではなく、本選挙をにらんだ方向に戦術転換を図っています。