トランプ大統領から絶対的信頼を得ているバノン氏が一人で、上級顧問、首席戦略官、そしてNSC幹部会議メンバーという三役をこなす。「バノンはホワイトハウスのラスプーチン*的存在になってきた」(主要紙ホワイトハウス詰め記者)という指摘も出てきています。

*:帝政ロシア末期、ロシア皇帝ニコライ2世に重用され、権力を欲しいままにした祈祷僧グリゴリー・ラスプーチン。ロシア帝国が滅びる遠因となった。

 ニューヨーク・タイムズは1月30日付の社説で、バノン氏の重用について警戒心を露わにしています。「万一、南シナ海で中国と軍事衝突が起きたり、ウクライナでロシアと軍事対決する事態になった時、トランプ大統領はこの扇動者(バノン氏のこと)に助言を求めるのか。あるいは、分別もあり国際感覚のあるマティス国防長官やティラーソン国務長官の意見を聞くのか。想像しただけで背筋が寒くなる」

("Organization of the National Security Council System." Presidential Policy Directive, The White House, 2/13/2009)

極右団体の旗艦「ブライトバート・ニュース」

スティーブ・バノン氏とはどんな人物ですか。

高濱:先の選挙ではトランプ陣営の首席戦略担当者として陣頭指揮をとりました。陣営に参加するまでは、超保守系オンラインニュースサービス「ブライトバート・ニュース」*の最高経営責任者をしていました。

*:ブライトバート・ニュースは超保守派のアンドルー・ブライトバート氏が創設したメディア。白人至上主義を唱える極右政治団体「アルト・ライト」の旗艦的存在。ブライトバート氏は2012年に45歳の若さで他界。この後をバノン氏が受け継いだ。保守系メディアでは最高のアクセス数を誇っている。

 バノン氏は「これまでやらなかった職業はない」と自分で言うほど様々なことをしてきました。バージニア州立工芸大学を中途退学して海軍に入隊。7年の間に、駆逐艦乗組員や米海軍作戦部長付き副官などを務めました。

 除隊後、大手投資銀行の米ゴールドマン・サックスで投資担当を経験。その後ジョージタウン大学大学院、ハーバード大学経営大学院で修士号を取得。ゴールドマン・サックス当時の同僚とメディア関連の投資会社を興し、90年代にはハリウッドに進出して映画制作を手掛ける一方、地球温暖化や大気汚染防止について研究するプロジェクトにまで手を広げました。

 トランプ氏とは、保守的な政治哲学で意気投合。同氏が2016年6月、大統領選に立候補した時にはせ参じて、選挙戦略参謀に就任しました。「トランプの不用意な発言や過激な主義主張に肉付けし、理論構成したのはバノン」(トランプ氏の選挙活動を取材した米テレビ局記者)と言われています。主要メディアからの攻撃に一人で立ち向かい、トランプ氏を守ってきたのはバノン氏でした。

ニューヨーク・タイムズを目の敵

これだけの学歴と経験がありながら、どうして極右運動にのめり込んだのでしょう。

高濱:学歴と政治思想とはあまり関係ないのではないでしょうか(笑い)。バノン氏は、東部の最高学府で学び、大企業で働いたにもかかわらず、東部エスタブリッシュメントの水には馴染まなかったようです。とくにリベラル・エリートには反感を持っていたようです。海軍の町、バージニア州ノーフォークで働くブルーカラーの息子だったことと無縁ではないかもしれません。

 バノン氏は、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、「この国のメディアは反対勢力だ」と激しい口調で攻撃しています。「君たちは大統領選挙の見通しを見誤った。歴史に残る屈辱的敗北だ。これを恥じて、しばらく黙っていたらどうか」

("Trump Strategist Steve Bannon Says Media Should 'Keep Its Mouth Shut,'" Michael Grynbaum, New York Times, 1/26/2017)

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