ところがクリントン氏が国務長官を辞めたあと、後継者のジョン・ケリー国務長官は「アジア回帰」政策の中の安全保障面、つまり「米軍事プレゼンス強化」を疎かにしてしまったという指摘があります。気候変動問題や北朝鮮の核開発阻止などで中国の協力を得ようとして中国に気を遣い過ぎたというわけです。

 大統領選の最中、クリントン陣営には、クリントン氏が大統領になった時に取り組む「アジア回帰」政策では軍事的側面を前面に押し出すべきだ、という主張がありました。

クリントンの「改定版」とトランプの「改訂版」の共通項

 皮肉なことですが、「アジア回帰」政策に取り組むうえで、トランプ氏もクリントン氏も同じような修正を考えていたようです。軍事面にもっと力点を置くべきだという点で両者は一致していました。

 トランプ政権にも影響力を及ぼす保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ政策研究所」のマイク・オースリン上級研究員は、その点についてこう述べています。

 「トランプ氏が『アジア回帰』政策を踏襲するとすれば、オバマ大統領よりももっとアグレッシブに推し進めるだろう。中国の台頭、北朝鮮の核の脅威に対抗するために『アジア回帰』政策の柱だった日韓豪との軍事同盟関係をさらに強めるに違いない。選挙中には日韓との同盟関係に疑念を表明したこともあるが、当選後はそうしたスタンスは影を潜めている。安倍晋三首相と会談したり、豪韓比首脳らと電話会談したりしているのはその変化のシグナルと見ていいだろう」

("What Future for the Asia Pivot Under Trump?" Michael Auslin and others, Expert Roundup, Council on Foreign Relations, 12/14/2016)

中国の「AA/AD」に「JAM-GC」行使

中国は海洋利権拡大に向けた露骨なデモンストレーションを続けています。2016年末には、空母「遼寧」を太平洋に進出させました。南シナ海では人工島を築き軍事化。東シナ海では、尖閣諸島周辺の日本の領海を侵犯。軍事色を強めるトランプ流の「アジア回帰」政策は、中国に対して具体的にはどのような行動に出るのでしょう。

高濱:トランプ氏の対中軍事政策ブレーンの一人、ハリー・カズアニス博士は具体的な対応についてこう指摘しています。同博士は「センター・フォア・ザ・ナショナル・インタレスト」(ニクソン大統領が設立)で国防研究部門の主任研究員を務めています。

 「オバマ政権の『アジア回帰』政策は安全保障面をないがしろにしてきた。その結果、過去10年、中国はアジアでやりたい放題のことをやってきた。南シナ海の公海上に人工島を作り、そこを軍事化するのを米国は手をこまぬいて見ていた」

 「米国は中国の海洋進出に対抗するだけでなく、アジアにおける米国の抑止力がなんであるのか、中国に明確に理解させる必要がある。中国は、『接近阻止・領域拒否』(AA/AD)*戦略を採用し、東アジアにおける米軍力を無力化しようとしてきた」

*『接近阻止・領域拒否』とは、①西太平洋海域で中国軍が行う軍事作戦に対する米軍の介入を阻止、第2列島線(伊豆諸島を起点にグアム・サイパン・パブアニューギニアに至るライン) 以西の海域で米軍による自由な作戦展開を阻害するという中国の作戦構想。