国務、国防両省を睥睨する「ニクソン型NSC」

ということは、外交安全保障政策の立案では国務、国防両省よりもホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)の方が重要な役割を演ずることになりますね。

高濱:そう思います。ニクソン時代のNSCは、国務省や国防総省といった管轄官庁を差し置いて主導権を握っていました。ニクソン大統領は12人だったNSCスタッフを一挙に34人に増員。そしてNSCの事務局長を務めるキッシンジャー補佐官の下、各省庁から人を集めたワーキンググループや国家安全保障政策検討グループを設置、NSC指令やNSCメモランダムを作成させるなど外交安全保障政策立案の主導権を与えたのです。トランプ大統領がこうした方式をとることはまず間違いなさそうです。

("President Nixon and the NSC." A Short History of the Department of State, Office of Historian, Department of State)

("National Security Council Structure and Functions," Richard Nixon Presidential Library and Museum)

そのトランプ・ホワイトハウスは、オバマ政権が外交政策の基軸としてきた「アジア回帰」政策を継承するのでしょうか。

高濱:イエス・バット・ノー(Yes but No)です。つまり継承はするでしょうが、その中身はかなり変わるということです。

 確かに「アジア回帰」という言葉はオバマ政権が言い出しっぺですが、アジア重視というのはオバマ政権以前から米外交の方向性としてありました。国際テロ組織「アルカイダ」の台頭で、ジョージ・W・ブッシュ政権の軍事外交能力は中東地域にそがれましたが、21世紀の米国にとって通商貿易、安全保障の両面からアジアほど重要な地域はありません。中国の軍事力増強や北朝鮮の瀬戸際外交は、「太平洋国家・米国」にとって死活的に重要な意味を持っています。

「アジア地域に米国の国益、米国の成功がかかっている」

 したがって、「アジア重視」のスタンスは、大統領が共和党のトランプ氏になろうが、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官であろうが変わりません。

 アントニー・ブリッケン国務副長官が1月5日の記者会見で次のように言い切っています。ビル・クリントン、オバマ両政権で中長期的な外交方針を決めてきた核となる人物です。

 「トランプ政権を代弁することはできないが、米国の国益を考えた場合、アジア太平洋地域ほど重要な地域はないというのが米国の認識だ。米国が『アジア回帰』政策を推進してきたのは、この地域に米国の将来、米国の成功がかかっていると見ているからだ。この地域は世界人口の3分の1以上、世界全体の国内総生産(GDP)の3分の1以上を占める。米国の同盟国5か国がこの地域に存在する。今後10年間に世界の中産階級の3分の2、世界経済の3分の2がこの地域に集積する」

変貌した「アジア回帰」の練り直しを模索

 「アジア回帰」政策の立案に参画し、実行に移したのは元々、国務長官だったヒラリー・クリントン氏です。同氏は「アジア回帰」政策の骨格として、以下の点を「フォーリン・ポリシー」誌(2011年10月号)への寄稿で挙げていました。①アジア地域の新興勢力との実務的協力関係強化、②アジア地域との貿易・投資の促進、③アジア同盟諸国との軍事同盟の強化、④アジア地域での広範囲な米軍事プレゼンス強化、⑤アジア地域の民主主義と人権主義の促進、⑥アジア地域の多国間機関への関与。

("America's Pacific Century,"Hillary Clinton, Foreign Policy, 10/11/2011)