ついに「正論」を吐いてしまったバノンの性

高濱:ワシントンに在住する、民主党系政界オブザーバーの一人は、寓話「サソリとカエル」*に例えてこう言っています。

 「サソリ(バノン)は自分が川で溺れ死ぬのが分かっていてもカエル(トランプ)の背中を刺す。サソリの性(さが)なのだろう。部外者には理解できないのがトランプ氏とバノン氏の関係じゃないのか」

*:川を渡りたかったサソリがカエルの背中に乗せてくれと懇願。カエルは、サソリが自分を刺さないことを条件に乗せるが、結局刺されて死んでしまうという寓話

 「トランプ氏もバノン氏も保守主義者で、我こそ一番頭が良いと思い込んでいる。政権樹立までは、ともに『アメリカ第一主義』を貫き、オバマ前政権のやってきた政策とは正反対の保守政権を目指した。ところが出来上がった政権は、バノン氏にしてみれば、トランプ氏の親族と軍人と実業家からなる寄せ集め政権。これに耐えられなかった。問題の発言は、解雇された昨年8月以降のもの。ロシアゲート疑惑の中心人物であるドナルド・ジュニア氏やクシュナー氏に対する憤りが口をついて出たのだろう。本音というか、バノン氏の性が出てしまった」

サソリはカエルの背中を刺してしまいましたが、バノン発言だけではカエルであるトランプ氏の政治生命は終わりそうにありませんね。

高濱:さあ、どうでしょう。サソリの毒がカエルの体中に回って、命取りにならないとも限りませんよ。

 バノン氏の意図については、別に2説あります。

 一つは、これはトランプ氏とバノン氏が仕組んだ「猿芝居」だという説です。つまりロシアゲート疑惑でトランプ・ジュニア氏が起訴されるのは時間の問題だというのです。ひょっとしたらクシュナー氏も起訴される可能性があります。そうなる前にこの二人を悪者にして、トランプ氏と切り離す。同氏は安泰。まさにトカゲのしっぽ切りです。

 もっともバノン氏の発言内容が発覚した後のトランプ氏の憤りを見ていると、本心からのようにみえます。

 「スティーブ・バノンは私及び大統領職とは何の関係もない。スティーブは(首席戦略官・上級顧問を)解雇されたとき、その職を失っただけでなく正気も失った(lost his mind)」

 「スティーブが私と差しで話すことは極めてまれだった。あたかも(私に対する)影響力があるかのように見せていただけだ。(私との)アクセスや接点もないくせに影響力があるかのように見せ、人々を欺いていた。そしてインチキ本を書く手助けをした」
("Read Trump's Reaction to Steve Bannon's Comments," New York Times, 1/3/2018)

20年大統領選への出馬に向け準備を始めたバノン?

もう一つの説はどんなものですか。

高濱:バノン氏は、政治経験のまったくないトランプ氏に選挙参謀、戦略担当者として仕え、同氏を大統領にしてしまいました。トランプ氏の当選を阻もうとした共和党保守本流と真っ向から戦い、それでも見事当選させた。ホワイトハウスを去った後も上院アラバマ州の上院補選で、共和党執行部が支持する候補者に対抗馬を立てて勝ちました。政策面でも選挙でも大変な自信を持っているようです。

 なので、バノン氏自身が大統領選に出馬するとの説が昨年後半から出ているのです。そこに持ってきて今回のトランプ氏との「決裂」劇が出馬説をいやが上にも盛り上げる。

 無論、この場合、共和党の現職であるトランプ氏が再選を目指さないことが前提条件としてあるわけですが……。つまり、「ポスト・トランプ」を狙うバノン氏のキャンペーンの始まり、というわけです。
("Bannon 2020? 'I have Power': Is Steve Bannon Running for President?" Gabriel Sherman, Vanity Fair, 12/21/2017)
("Bannon may run for president," Brent Budowsky, The Hill, 10/24/2017)

 北朝鮮情勢が何となく収まる方向に進み始める中で、トランプ政権にとっては予想だにしなかった「バノン爆弾」が年明けから炸裂しました。政界はまさに一瞬先は闇です。