社員への投資をコストと見ると逆に高いコストを支払うことに

日本人は、どうしても、やる気や根性で成果を出すという精神論を推し進める傾向があります。それが過重労働につながり、「過労死」という最悪の結果を招くケースも出てきています。こうした状況をどう見ますか?

ファソロ氏:非常に残念な状況だと言わざるを得ません。エネルギーをうまくコントロールしながら、自分らしくベストな人生を歩んでほしいと、切に願います。

 J&Jの使命は、世の中に存在する健康問題を解決していくこと。そのためには、一人ひとりの従業員が「自分は会社にきちんとケアしてもらっている」「ここは安全な環境であり、自分が自分らしくベストでいられる」と感じられる環境作りをしていくことが重要であり、それが「この会社のために一生懸命頑張りたい」と思ってもらえることにつながっていくと考えます。もちろん、それぞれの従業員が抱える問題は違います。ある人は年老いたご両親の面倒を見ているかもしれないし、またある人は、子どもを抱えて働く若い夫婦かもしれない。一人ひとりの状況に対し、会社は何ができるのかを常に考えていく必要があります。

しかし、そのような取り組みは大企業でゆとりがあるからできるのでは?という見方もあります。

ファソロ氏:確かに、お金をかけないとできないプログラムもあるかもしれませんが、人に対する投資は、経済的なものだけではありません。大切なのは、一人ひとりの従業員に対し、「あなたたちに思いを馳せているよ」ということがきちんと伝わるようにすること。彼らが抱えるそれぞれの問題に対し、どんなサポートができるのかを考え、できる支援を行うことです。フレキシブルな働き方を認めたり、上司が部下に対してしっかり目を配り、ケアしてあげることも投資のひとつと言えるのではないでしょうか。子育てのための休暇、ヘルシーなメニューを提供するといったものも、それほどお金はかかりませんよね。そうした小さな努力が離職率を下げたり、継続して働いてもらったりすることにつながっていくと思うんです。

それぞれの従業員が抱える課題や葛藤を取り除くだけでなく、ベストな状況に近づけるための環境づくりを行う。それは、会社の成長に欠かせない投資であり、人材の獲得・定着というリテンションマネジメントにも効果的ということですね。

ファソロ氏:そうです。そうでなければ能力のある人に入ってもらうことも、留めることもできませんし、会社として競争力も保てません。社員にかける投資がコストであるという考え方は、長期的にみると、逆に高いコストを支払うことになるのではないでしょうか。

 イノベーションを生み出すには、組織に多様性があること、そこで働く従業員が「この会社のために頑張ろう」とエンゲージメントを持った状態でなければいけませんし、長期的な視点なしには成り立ちません。我々が一貫して、人に対する投資を行ってきたのは、こうした経営哲学に基づいたものであり、重要な経営戦略でもあります。