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 市場ではほとんど話題にならなかったが、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が12月17日に掲載した社説は興味深い内容だった。「物価上昇率は頑固なまでに低いままだが、実体経済は健全な」日本の状況に関し、この海外有力紙はどのような政策対応をすべきだと提言したのか。答えは日銀による金融緩和継続さらには緩和強化である。

金融緩和強化と消費増税放棄を提言したFT

 この社説は、異次元緩和に乗り出した日銀は成功したのか失敗したのかという問いへの答えは「両方」だと整理。失業率が低下したことは成功を示しているが、物価が目標である2%を大幅に下回ったままである点は失敗であり、「金融引き締めはまだ正当化されない」「追加の政策の選択肢が考慮される必要がある」と主張。物価の上がり方が弱い原因として、①金融緩和が景気過熱につながっていないこと、②ドル/円相場が15年以降は円高・ドル安に動いたこと、③インフレ期待が0%に近い水準に貼りついていること、以上3点を指摘した。

 この社説によると、たとえさまざまな障害があっても日銀は資産買い入れと金利コントロールの組み合わせを続けていなければならず、短期金利をマイナス領域でさらに引き下げなければならないかもしれないという(マイナス金利深掘りの提唱)。

 政府の財政政策の協力も必要であり、今年10月実施予定の消費税率引き上げは物価目標が達成されるまで放棄される必要があると、この社説は主張した。増税の対象としては、個人消費よりも企業の余剰資金の方がはるかに望ましいという。その上で、デフレではないがインフレが起こっていない状況を打破する手段として、「ヘリコプターマネー」を明示的に行うことが要求されることもあり得るとした。

 上記の主張は日本のリフレ派のそれと非常に似通っており、海外投資家の間で共有されている考え方かどうかは疑問である。だが、金融政策の正常化を一度決めたスケジュール通りに急ぎがちなECBに対し柔軟な政策運営を促すなど、FTの社説は市場の動き方(最初の利上げのタイミングの織り込み先送り)と連動することもある。

「正常化願望」実現の可能性は大幅低下

 筆者以外の日銀ウオッチャーの多くは、7月末に決めた緩和策修正のいわば続きとして、日銀が金融政策のさらなる正常化に動くのではないか、あるいは動くはずだという一種の固定観念に沿って予想を提示してきたのではないかという印象がある。

 そうした「正常化願望」、なんとか金利を引き上げておいて今のうちに「のりしろ」をつくっておきたいという考えは日銀内にもあるのだろうし、市場参加者の側では金利水準が上がってくれないと困る向きが少なからずいる。

 だが、そうした願望が現実に結び付く可能性は、海外経済・マーケット状況の悪い方向への大きな変化によって、明らかに大幅低下した。

 日銀の追加緩和観測(あるいは政治サイドからの追加緩和要請)が出てこないで済んでいるのは、ドル/円相場が足元でなお居心地の良いレンジ内にあり、一種の「つっかい棒」の役割を果たしているからである。

 したがって、この「つっかい棒」が今後、米国の利上げ局面終了説の広がり、さらにはその先にある米国の利下げ観測の浮上によって外れてしまう場合、日銀の「次の一手」を金利引き上げなど政策正常化の方向で予想することは、きわめて難しくなるだろう。

 日銀はETF(株価指数連動型上場投資信託)買い入れの柔軟化(暦の区切りを気にせずに集中的な日本株の買い入れが可能になった)というカードを7月末に手にしており、すでにこれをフル活用している。だが、これは株価対策にはなっても、為替の円高対策にはならない。ほかの手を考えていく必要がある。今年はこの問題が市場の関心を集めるだろう。