2015年、「アベ政治を許さない」「一億総活躍社会」

 2015年になると、安倍内閣の政策への人々の関心は、経済政策と安全保障政策のどちらか1つに比重がかかるという感じではなくなった。そのことは、ノミネートされた言葉の顔ぶれからもうかがえる。年間大賞の1つは来日する中国人観光客の大量購入に代表される「爆買い」だが、これには為替相場の大幅な円安が多いに寄与しており、必ずしも「アベノミクス」の成果というわけではなかった。現在では、ドル/円相場が125円台をピークに反転して円高方向に動いたことや、中国の関税政策の変更、「モノ消費」から「コト消費」へのシフトなどから、「爆買い」は失速が鮮明になっており、百貨店の売上高減少などに結びついている。トップテンには外交・安全保障の関連で「アベ政治を許さない」、経済政策の関連で「一億総活躍社会」が入った。

2016年には「アベノミクス」の影は薄かった

 では、もうすぐ終わろうとしている2016年はどうだろうか<■図4>。年間大賞にノミネートされた言葉(今回は30語に減った)の中には、消費税率の10%への引き上げ再延期を説明する際に安倍首相が口にした「新しい判断」があるものの、「アベノミクス」は影が薄い。「マイナス金利」は日銀の独走とも呼べそうな政策決定である。金融機関収益への過度の圧迫や消費マインド悪化といった弊害・副作用がほどなく露呈したため、日銀は9月には「イールドカーブ・コントロール」を導入するなど金融緩和の枠組みを修正した。

■図4:2016年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた言葉
ノミネートされた30語 うちマーケットに直接関係するもの うちアベノミクスに直接関連しているもの
アスリートファースト/新しい判断/歩きスマホ/EU離脱/AI/おそ松さん/神ってる/君の名は。/くまモン頑張れ絵/ゲス不倫/斎藤さんだぞ/ジカ熱/シン・ゴジラ/SMAP解散/聖地巡礼/センテンススプリング/タカマツペア/都民ファースト/トランプ現象/パナマ文書/びっくりぽん/文春砲/PPAP/保育園落ちた日本死ね/(僕の)アモーレ/ポケモンGO/マイナス金利/民泊/盛り土/レガシー EU離脱/トランプ現象/マイナス金利      新しい判断/マイナス金利/民泊     
(出所)「現代用語の基礎知識」資料より筆者作成

英米の「EU離脱」「トランプ現象」のインパクトが大きかった

 筆者の見るところ、そうした国内の政策よりもはるかにインパクトが大きかったのは、国民投票で決まった英国の「EU離脱」と、米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利した「トランプ現象」である。これら2つはノミネートされた30語の中に、しっかり含まれていた。

 世界経済の成長を支えてきたグローバル化の中で取り残された人々の不満が噴出して、保護主義的・排外主義的なムードが米国や欧州で強まる中、世界経済や国際秩序はこれからどのような方向に向かおうとしているのだろうか。「トランプのアメリカ」と中国のはざまで、日本の安倍内閣は2017年以降どのようなポジショニングをするのか。

安倍政権は今後、「受身の対応」を余儀なくされそうだ

 2016年は、「アベノミクス」の新たな展開ではなく、欧米で鮮明になった「反グローバル化のうねり」という歴史の分水嶺になり得る大きな動きへと人々の関心が移った、画期的な年になったと、筆者は受け止めている。

 安倍内閣の政策は、国政選挙での勝利を足場に、2013~2015年については経済政策と外交・安全保障の軸足・バランスを年ごとにうまく調整しながら、能動的に展開されてきた印象が強い。しかしこれからは、国際情勢・海外経済の大きな変化にいかに対応していくかという、いわば「受け身の対応」を余儀なくされそうである。

 そうした中から新語・流行語が生み出されて、何が起こったのかを毎年11~12月に示してくれるに違いない。

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