「われわれはデータに依存しているものの、ダイヤルの針の振れにいちいち対応するわけではない」とも、同副議長は発言。個別の経済指標の下振れだけでは不十分で、米国景気全体の過熱感がなくなり減速が明確化するという「方向性の著しい変化」が確認できた場合には利上げを休止することで、FRB指導部が一致していることを示唆したものだと、筆者は受け止めている。

 米国の主要な景気指標の中では、週次で発表されているイニシャルクレーム(新規失業保険申請件数)が、このところ増加トレンドに転じている<図2>。11月24日までの週は235千件で、3週連続の増加。次の週は小幅減少したものの、基調は上向きである。

図2:米イニシャルクレーム(新規失業保険申請件数)
図2:米イニシャルクレーム(新規失業保険申請件数)
(出所)米労働省

 イニシャルクレームは、米調査機関コンファレンスボードが月次で公表している景気先行指数の内訳に採用されている経済指標でもある。だが、FRBにとっては、利上げを止める前提になる米景気減速明確化のエビデンスとしては、これだけではまだ不十分なのだろう。

 米国の金融政策を決める会合である米FOMC(連邦公開市場委員会)参加者の最近の発言のうちで、筆者が最も強い印象を受けたのは、12月4日の英経済紙フィナンシャルタイムズが掲載した、カプラン・ダラス連銀総裁のインタビューである。カプラン総裁は、12月FOMCにおける追加利上げに賛成するのかという問いかけへの直接の回答は避けつつも、ハト派(利上げ慎重派)的な議論を展開した。

 「われわれがそれ(利上げ)をやり過ぎてしまう事態を、私は避けたい(I want to avoid a situation where we have overdone it.)」

 上記の発言に、カプラン総裁の主張、さらにはパウエル議長率いるFRB指導部が利上げ休止に向けた地ならしをこのところ行っている理由が凝縮されているように思う。

拡張局面を長引かせてほしいトランプ大統領

 FRBが利上げを重ねすぎた結果として景気がポッキリいってしまう(景気後退が到来する)というのが、過去に何度も見られたパターンである。そうした事態を回避し、景気拡張局面をできるだけ長引かせるのが、FRBに現在課せられている課題である。

 ちなみに、20年大統領選での再選を目指しているトランプ大統領がFRBによる利上げへの批判を繰り返している背後には、景気悪化時の選挙は自らに不利だから拡張局面をできるだけ長引かせてほしいという意向があると推測される。

 カプラン総裁はさらに、「インフレ状況がより落ち着いているので、忍耐強くなり、非常に警戒的になり、間違いを犯してしまうのを避けようとする余裕が、われわれにはあると思う」と述べた。物価急加速のリスクが小さければ、あわてて利上げを重ねる必要性は乏しい。

 また、財政面からの刺激で米国の経済成長はかさ上げされており実勢が見えにくくなっているものの、19年前半あるいは半ばになればそうした影響が減衰して、米国の経済は現在とは相当違って見えるかもしれないと、カプラン総裁は主張。

 その上で、景気のダウンサイドリスクとして、財政面からの景気刺激の減衰に加えて、これまでの利上げの効果発現、住宅セクターの弱い兆候、世界経済の減速、貿易摩擦・関税の悪影響を挙げた。

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