日本を元気にする処方せんは、これでいいのか

 筆者の頭にまず浮かんでくるのは、上記の政策は何を最大の狙いとしているのかという、素朴な疑問である。

 衆議院解散にあたって行われた9月25日の安倍晋三首相記者会見を振り返ると、「人づくり革命」に関する次のくだりがある。

 「急速に少子高齢化が進むこの国が、これからも本当に成長していけるのか。この漠然とした不安にしっかりと答えを出してまいります。それは、生産性革命、そして人づくり革命であります」

 「もう1つの最大の柱は人づくり革命です。子供たちには無限の可能性が眠っています。どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する決意です。授業料の減免措置の拡充と併せ、必要な生活費を全て賄えるよう、今月から始まった給付型奨学金の支給額を大幅に増やします」

 ここで首相が展開したロジックは、人口減・少子高齢化に直面して日本経済の将来の成長が危うくなってきたことへの対応として、生産性向上と人づくり革命の2つを行っていく、後者の具体化として高等教育無償化などを推し進める、というものである。

 だが、医者に例えて言えば、「日本経済がかかっている慢性的な病に対する処方せん」は、本当に上記の2つでよいのだろうか。

出生率の上昇に直結するとは考えにくい

 労働生産性を引き上げることによって経済の潜在成長力を高めるというお決まりの議論の適否について、ここではあまり触れない。1つだけ言っておくと、労働生産性というのは事前の計画に沿って思いのままに引き上げることが可能なものではなく、各経済主体がさまざまな試行錯誤を行った末に、事後的・結果的に数字が出てくるコンセプトである。

 では、幼児教育や大学教育の費用負担を支援することが、日本経済の成長力の下支えや底上げに大きく貢献するのだろうか。筆者には大いに疑問である。また、SNSでこの問題に関連する投稿を見ると、「(政府は)何もわかっていない」といった批判的な内容のものが数多く並んでいる。今回の施策の主な問題点を3つ指摘すると、以下のようになる。

 まず、人口動態が経済に及ぼす影響を重視しているエコノミストとしての立場から言うと、今回のような「すでに子どもがいる世帯」の教育費負担への公的支援が日本人の「数」を増やすこと、すなわち出生率の上昇に直結するとは考えにくい点が挙げられる。保育所・幼稚園の費用負担などがなくなるだけで、すでに子どものいる世帯で「子どもをもう1人持とう」という意欲が増大するだろうか。あるいは、子どもがいない世帯で「子どもを持とう」とする意欲が増大するだろうか。

 全くないわけではないだろうが、限定的な効果しか期待できまい。出産適齢期の女性の数の問題(後述)に鑑みると、人口対策の切り札はやはり、「新たな開国」すなわち外国人の受け入れ(一時滞在の観光客だけでなく、定住者の増加促進)に、消去法でならざるを得ない。だが、「食わず嫌い」を通してきた結果、「下向きの人口動態」が地方から、経済基盤やコミュニティーを崩壊させ始めているのが実情である。

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