日銀の黒田東彦総裁は11月13日、チューリヒ大学で講演し、「リバーサル・レート」という経済理論に言及した。政策金利がある一定水準を超えて低金利になると、副作用が出やすくなるという考え方である。黒田総裁の金融緩和を巡る発言に“変化”が生じていると見る向きもあるが、その真意は?(写真:ロイター/アフロ)

 筆者はマーケットに足場を置くエコノミストとして、日銀の動向も日々ウォッチしている。今回は機関投資家から最近寄せられた日銀関連の質問をいくつか選んで、回答を掲載したい。

「必要ならイールドカーブの形状調整」の意味

Q:中曽宏日銀副総裁がニューヨークで10月18日に行った講演で、「先行き、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、必要であればイールドカーブの形状についても調整を行っていく方針です」と述べた。これは、現在の長期金利ターゲットである「ゼロ%程度」の引き上げ、あるいは長期金利の変動許容上限(0.1%前後とみられている)の引き上げに向けた布石ではないかとの見方が、市場の一部にある。この中曽発言も踏まえた上で、日本経済新聞は11月2日に「日銀、金利調整へ地ならし」と題した記事を掲載した。どうみるか。

A:これは、2%の「物価安定の目標」達成を目指して粘り強く金融緩和を続けていく姿勢を日銀は取り続けているものの、金融引き締め方向の政策変更を行う意欲を失ってしまったわけではないという、任期満了を控えたプロパーの副総裁による一種の注意喚起(ないしデモンストレーション)の色彩を帯びた発言だと、筆者はドライにみている。2%目標に物価が近い将来に接近していく確信があって、その手前で計画的に金利引き上げの地ならしを行ったものだとは、到底考えられない。

国債の各年限の金利水準がリアルタイムで公表されないが

Q:上記発言の直前に中曽副総裁は、「均衡イールドカーブ」(景気を加速も減速もさせない中立的な実質金利について、短期金利だけでなく利回り曲線全体について考えてみた概念であり、日銀が研究論文の形で打ち出した)について「様々な角度から理論的・実証的分析を進めている」とも述べていた。そうしたイールドカーブにおける国債の各年限の具体的な金利水準がリアルタイムで公表されないのはなぜか。

A:研究途上の課題が少なくない上に計測誤差も大きいからといった理由付けが、日銀側からされるのだろう。だが、より本質的には、外部の人間には検証不可能であいまいな概念を提示しておくことによって日銀が追加緩和に追い込まれないようにする、という動機付けの方が大きいのではないか。これは、「物価上昇のモメンタム」という日銀が提示している概念にもあてはまる。きつい言い方をすれば、「均衡イールドカーブ」と「物価上昇のモメンタム」は、日銀が追加緩和論議にさらされないようにしつつ、イールドカーブの再度の極端なブルフラット化(金利が低下しながらの利回り曲線の平たん化)を避けるための、ギミックのようなものである。イールドカーブが平坦化し過ぎると銀行収益や保険・年金運用が圧迫されて、経済にはかえってネガティブだという認識を、いまの日銀は抱いている。