もっとも、中立金利の水準を厳密に特定するのが事実上不可能であること(加えて言えば、日銀が以前に指摘した通り、イールドカーブの形状からくる経済へのインパクトの違いもおそらくある)、金融政策変更の影響が実体経済に出てくるまでには1年以上のラグ(時間差)があるとみられること(ずっと先の状況を的確に予測しながら「運転」するのは容易なことではない)など、上記のブラインダー氏の主張には弱点もある。

図1:フェデラルファンド(FF)レート誘導水準
図1:フェデラルファンド(FF)レート誘導水準
注:誘導水準がピンポイントではなくレンジの場合、中心点を表示
(出所)米FRB

 その後、10月29日のWSJ紙には、ブラインダー氏の寄稿への反響と位置付けられる投書が2つ掲載された。うち1つが面白い内容だった。

 それは、もともと不動産の開発業者(デベロッパー)であるトランプ氏の度重なるFRB批判は、そうした業者特有の思考パターンに基づいているのではないかという投書である。

長年の思考パターン故なのか

 不動産デベロッパーが期待するFRBの役割は、金利をできるだけ低水準にとどめることである。デベロッパーは多額の資金を借り入れるので、借りる際の金利水準が収益の大小に直結する。完全雇用・大きな財政赤字の下でFRBが低金利を維持すると、許容すべきでない水準へのインフレ加速が避けられないが、デベロッパーはインフレを恐れない。なぜなら、インフレの下では不動産の市場価値は上がり、収益は上乗せされ、失敗した投資案件がインフレによる債務の目減りによって救われるかもしれないからである。

 投書の主は最後に、米国の政府債務増加の問題にも思考を及ばせている。GDP比で大きく上昇した米国の連邦政府債務比率を引き下げるには、もし民主党が歳出削減をいやがり、共和党が増税をいやがるならば、第2次世界大戦後の米国のように、インフレによる債務の棒引きが残された唯一の手法だという(いわゆる調整インフレ)。

 共和党は以前、マネーの面で健全な政党とみられていた。だが、「トランプの党」(大統領寄りになった現在の共和党)は決してそうではないと、この投書は結論付けた。

 若いうちに身についた思考や行動のパターンは、年齢を重ねても(特に中高年では)、なかなか変わりにくいとされている。トランプ大統領による度重なるFRB批判トークにも、度合いは不明確だが、そうした面があるのかもしれない。

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