トランプ大統領は、FRBを公然と批判している(写真=ロイター/アフロ)

 10月28日に行われた2つの選挙は、経済格差拡大の中で蓄積した不満がポピュリズムや保護主義などに結び付く「歴史のうねり」が続いていることを、如実に示した。

 この日に投開票されたブラジル大統領選挙の決選投票では、極右のボルソナロ下院議員が左派のアダジ元教育相を破った。ボルソナロ氏はマイノリティーへの差別的な発言やSNSを多用する手法などから「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。「(ブラジルの軍事)独裁政権の過ちは(反体制派を)拷問したが殺さなかったことだ」「警察は(サンパウロでの刑務所暴動で)111人ではなく、1000人殺しておくべきだった」「機関銃で(最大のスラム街)ホシーニャを一掃すべきだ」といった、過去の過激な発言が報じられている。ただし、トランプ米大統領とは異なり、ボルソナロ氏は自由貿易推進派とみられている。

 治安対策に関連する過激な発言で知られているのが、フィリピンのドゥテルテ大統領である。既存政治への批判を展開し、16年5月の大統領選で勝利した。トランプ氏よりも国のリーダーになったのは早いが、「フィリピンのトランプ」と呼ばれることがある。

 「チェコのトランプ」もいる。既成政治の打破を訴える新興政党「ANO2011」を率いて17年10月の下院選挙で第1党の座を勝ち取り、同年12月に少数与党政権を発足させた富豪、バビシュ氏である。首相就任にあたりバビシュ氏は「汚職と闘い、効率的な国家を目指す」と強調した。だが、自身が保有する企業群を通じたEU補助金横領の疑惑がくすぶり、18年1月には議会によって免責特権をはく奪された。

 イタリアでは、ポピュリスト政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が発足。「イタリアのトランプ」とは言われていないようだが、同盟を率いるサルビーニ副首相・内相の動きが目立っている。

 欧州では、イタリアのほか、フランス、ドイツ、オーストリア、スウェーデンなどでも極右政党が国政選挙で躍進しており、金融市場で政治的なリスクの「火種」とみなされている。

世界に次々登場する「○○のトランプ」

 そうした中、ブラジル大統領選と同じ10月28日にドイツ・ヘッセン州(金融都市フランクフルトを含む重要な州)で行われた州議会選挙で、メルケル首相が率いる与党キリスト教民主同盟(CDU)が大幅に議席を減らした。

 第1党にはなったものの、伝統的な地盤での歴史的な敗北である。同首相は12月開催のCDU党大会で党首選への立候補を見送ると表明。首相職は21年の任期まで務めた上で、政界を引退する意向である。

 だが、党大会で選出されるCDUの後継党首が反メルケルの人物になって早期退陣を迫られるケースや、CDU以上に党勢衰退に苦しんでいる社会民主党(SPD)が大連立を解消する結果、前倒し総選挙に突入するケースも考えられる。ドイツの政治情勢の不安定化は、為替市場におけるユーロの売り材料である。

 欧州統合を推進する中心的な政治家としてドイツの首相を13年間も務めてきたメルケル氏は、保守政党の党首ながら、リベラルな路線をとってきた。自由貿易・国際協調を推進。地球温暖化対策にも積極的な姿勢をとってきた。米国のトランプ政権とは真逆である。

 だが、人道主義に沿う寛容な難民政策(大量の難民受け入れ)がつまずきのもとになった。1つの時代を築いた人物がついに退場の道筋をつけざるを得なくなったわけであり、歴史の区切り目と言っても過言ではあるまい。

 各国の国内政策だけでなく通商問題などでも価値観の対立が先鋭化し、世界の政治経済は先行き不透明感がかなり強くなっている。焦点になった2つの選挙が終わった後、週明け10月29日の米株式市場では、ニューヨークダウ工業株30種平均の日中値幅が918ドルという異例の大きさになった。市場の変動は今後も大きくなりやすいだろう。