
政府の意向に沿った金融政策が実施できるよう、政府サイドが人事権を大いに活用してきた先進国はどこだろうか。答えは日本である。リフレ派のブレーンの意見などを踏まえつつ、安倍首相自らが日銀の「レジームチェンジ」を主導。任期満了を待たず退任した白川方明氏の後任の総裁に、インフレ目標導入を財務官僚時代から主張していた黒田東彦氏を起用したほか、副総裁にはリフレ派の学者である岩田規久男氏を抜擢した。
その後、黒田総裁は再任、岩田氏の後任は同じリフレ派の学者である若田部昌澄氏になった。政策委員の後任人事では、異次元緩和に反対姿勢の人物は起用されず、賛成派か中間派のみが並ぶ陣容になっている。
実は、これと対照的なのが米国である。トランプ大統領はパウエルFRB(連邦準備理事会)議長が主導している緩やかな利上げ路線に、公然とクレームをつけている。だが、空席のFRB副議長やFRB理事を指名する際には、人事権を活用してFRBをハト派(利上げに慎重で利下げに前向きな意見の持ち主)で埋め尽くそうとするような動きは、全く見せなかった。そうしたFRB人事は80年代のレーガン大統領(当時)とは全く異なるやり方だとして、驚きをもって受け止める向きも少なくない。以下のような人事があった。
女性比率の高さに意外感
- 2月3日で任期が満了したイエレン氏の後任のFRB議長には、イエレン氏の下で緩やかな利上げ路線を支持してきたパウエルFRB理事が昇格。政策運営の継続性・安定性がアピールされた。
- 新設のFRB副議長(金融規制担当)には、クオールズ氏が起用された。ブッシュ(子)政権で財務次官を務めた経験がある、金融業界の規制問題に詳しい実務家である。
- 17年10月16日付で退任したフィッシャーFRB副議長の後任には、クラリダ氏が起用され、上院の承認手続きを経て今年9月17日に就任した。コロンビア大学教授、大手運用会社のグローバル戦略アドバイザーなどを務めてきた著名エコノミストである。
- FRB理事(議長・副議長兼務の理事を含めて定員7人)の空席3人には、①カーネギーメロン大学教授で、量的緩和に否定的な主張を展開したことがあるため、市場にはタカ派とみなす向きもあるグッドフレンド氏、②カンザス州銀行監督当局のボウマン氏(女性)、③元FRB金融安定部門トップのリャン氏(女性)が指名されており、いずれも上院の承認手続き終了待ちの状態である。
この3人がそのまま承認されると、FRB理事7人のうち、ボウマン氏、リャン氏に現任のブレイナード理事を加えた3人が女性になり、イエレン議長在任中よりも「女性比率」はアップする。女性蔑視のきらいがあるとされるトランプ大統領の下で、そうした状況が視野に入るとは、筆者には正直、想像できなかった。
FRBに空席が多数あったにもかかわらず、なぜ人事権を通じてトランプ大統領はFRBへの影響力を増そうとしなかったのだろうか。
ただ単に大統領の職務がきわめて多忙で、そこまで気を回す余裕がないだけなのか。それとも、トランプ氏は内心では中央銀行マンの専門性や中央銀行の独立性といったコンセプトに対し、それなりの敬意を抱いているのだろうか。
そうした疑問へのはっきりした答えが出てこない中、中間選挙まで1カ月を切ったタイミングでの米国株急落に直面したトランプ大統領は10月9日から11日にかけて、3日連続でFRBの利上げ路線を公然と批判して見せた。
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