だが、受給開始年齢をさらに高くする議論が進んでいるほか(後述)、健康寿命(介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を示す)は16年時点で男性が72.14歳、女性が74.79歳である。したがって、「70歳から受給」に拒否反応を示す人が(筆者も含めて)いるのは、もっともな話である。

 人間は「働き蜂」ではないわけで、「働き終わったら人生サヨウナラ」というのでは、多くの人は到底納得できないだろう。定年まで働いた後は、それまでの蓄えと支給される年金で悠々自適の生活を謳歌するというのが、老後の典型的なライフスタイルとして長くイメージされてきたのではないだろうか。

 ところが、程度の差はあるにせよ、多くの国で人口構成の高齢化が進んでおり、公的年金という保険システムの収支バランスを調整する必要性が高くなっている。「入り」については、納入される保険料の引き上げ、保険料を支払う人の範囲拡大、さらには税金の投入。「出」については、支給額を抑制するための支給開始年齢引き上げ、所得が高い人への支給額削減などが行われている。ほかに、年金積立金を金融市場で運用することによって年金の支給原資を増やそうとする努力も行われている。

 「入り」を増やし「出」を抑えるとなると、世代間の公平性が損なわれてしまい、「何歳以下は年金保険料は払い損」といった試算が世の中の関心を集めるようになっている。

 しかし、日本は「国民皆年金」である。日本年金機構のホームページを見ると、その説明として、「わが国では、自営業者や無業者も含め、基本的に20歳以上60歳未満のすべての人が公的年金制度の対象になっています。これを国民皆年金といいます。国民皆年金制度によって、安定的な保険集団が構成され、社会全体で老後の所得に対応していくことが可能になっています」という説明がある。全員に加入義務があるからこそ成り立っている制度であり、勝手に脱退する人が増えると制度は崩壊してしまう。あるいは、年金制度そのものを急に根本から違うものに作り替えるようなことは事実上不可能である。

 安倍内閣は海外人材の受け入れに消極的なままであり、保険料を払う人の数を大きく増やすのは今後も難しいとなると、「出」を抑制して少子高齢化による年金財政悪化に歯止めをかけるべく、65歳よりも上まで年金支給開始年齢を引き上げることは、避けて通れない課題だと言わざるを得ない。

かすむ悠々自適の老後

 財務省は4月11日、厚生年金の支給開始年齢を68歳に引き上げる案を財政制度等審議会の財政制度分科会に提示した。分科会に提出した資料は、「人生100年時代」を迎える中で、年金財政悪化により給付水準の低下という形で将来世代が重い負担を強いられると指摘。さらに、35年以降に団塊ジュニア世代が65歳になることなどを踏まえて、「それまでに支給開始年齢をさらに引き上げていくべきではないか」と主張。想定される新たな開始年齢を68歳と明記した。

 厚生労働省は19年春にも、5年に1度の年金財政検証の結果を示す。これを基にして将来の年金制度に関する議論が本格的に始まる見通しになっている。

 日本やロシア以外の国々でも、年金支給開始年齢の引き上げが行われている。米国では65歳から67歳に、英国では65歳から68歳に、ドイツでは65歳から67歳に、フランスでは満額受給が65歳から67歳に、それぞれ引き上げられつつある。日本を先導役にして世界的に高齢化が進み、年金財政が苦しくなる中で、「悠々自適の老後」がかすんできている。

 もう1つ、冒頭でご紹介した日経新聞・テレビ東京の世論調査は、興味深い結果を含んでいた。

 政府が企業に原則65歳まで働けるよう義務付けている年齢をさらに引き上げることについてたずねたところ、賛成が57%で、反対の36%を上回った。65歳を超えて70歳になるまではさすがに働きたくないものの、年金で不足する生活資金を手に入れるための選択肢は持っておきたいということか。

 ただし、男女別に見ると、賛成という回答が男性では54%にとどまる一方、女性では60%に達した。夫が働きに出ており妻が専業主婦である40代前後以上の世帯で妻が抱くことが多いとされる「亭主元気で留守がいい」というような、率直な気持ちの反映なのかもしれない。