本文中で筆者が注目したのは、「首相の答弁との整合性から政府は日米FTAの体裁は取れない。米国を環太平洋経済連携協定(TPP)に引き戻すための関税協議という位置付けになる方向だ」という部分。文章の上で安倍首相のメンツが立つ形になる落としどころを探る。そうしたテクニックに官僚はたけている。

 国連総会出席のため訪米した安倍晋三首相は、26日にトランプ米大統領と会談。TPPを重視してきた従来の日本政府の姿勢を事実上転換し、日米2国間の物品の貿易を自由化する「物品貿易協定(TAG)」締結に向けて新たな関税交渉を始めることで合意した。

 首脳会談終了後に出された共同声明には「日米両国は協議が行われている間、共同声明の精神に反する行動をとらない」と書かれており、安倍首相は「追加関税が課されることはないということを(トランプ大統領に)確認した」と述べた。

韓国は為替条項で合意したのか?

 だが、トランプ大統領の政策運営姿勢には、不確実性が常につきまとう。米国の強硬な要求を日本側が受け入れることができず、交渉が事実上物別れになる場合は、日本車への追加関税が一気に現実味を帯びるのではないか。

 経済政策運営にタガがはめられかねない「為替条項」は、日本政府としては絶対拒否の姿勢だろう。仮に、そうした類の条項を対米関係上受け入れざるを得なくなる場合でも、付帯文書に努力義務的な文章を入れるにとどめるとか、日本に有利な解釈もできる玉虫色の内容にするといったことを、事務方は当然考えるはずである。

 ちなみに、「為替条項」で合意したとする米国の主張を韓国は受け入れておらず、9月24日に米韓首脳が改定FTAに署名した後も「為替に関する新たな合意はない」と主張している。米国が主張する合意内容を記した文書は公表されておらず(9月27日 日本経済新聞)、真相はやぶの中である。

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