とりわけ若い層で現在の生活への満足度が高い

 内閣府が6月15日~7月2日に実施した今年の「国民生活に関する世論調査」の結果が公表されている。最大の特徴は、現在の生活に対する満足度が高まり、「満足している」と「まあ満足している」の回答比率の合計が73.9%に達したことである<■図1>。

■図1:国民生活に関する世論調査 現在の生活に対する満足度
■図1:国民生活に関する世論調査 現在の生活に対する満足度
注: 1991年以前は「満足」=「十分満足している」+「一応満足している」、「不満」=「まだまだ不満だ」+「きわめて不満だ」。1992年以降は「満足」=「満足している」+「まあ満足している」、「不満」=「やや不満だ」+「不満だ」。2015年までは20歳以上、2016年以降は18歳以上が調査対象。1974~76年は年2回調査が行われたうち後の方の結果を表示。
出所: 内閣府
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 2016年以降は18歳以上に調査対象が拡充されているため本来は直接比較できないが、表面的な時系列データでは1995年の72.7%を超えて過去最高を更新した(なお、20歳以上と18歳以上の双方のデータがある2016年は、18歳以上で「満足」が0.3%ポイント高い)。

 現状への満足度が高いのは、年齢が比較的低い層である。今年の調査で18~29歳は「満足」が79.5%に達している。30~39歳も77.4%と高い。景気拡張局面が長期化しており雇用情勢も大幅に改善しているのだから生活への満足度が高くなるのは当然だ、という声もある。それはその通りなのだが、だからそれで万々歳と言うわけにはいかない。

政府の政策運営への批判精神は希薄に

 まず、現状への満足度がさほど高くない(不満が大きい)場合にこそ、若年層を中心にアニマルスピリッツが喚起される結果、経済のベースの力が高まりやすいと考えることができるだろう。実際、高度成長期のデータを見ると、「満足」は現在よりも一段低い60%前後の水準で上下動していた。

 さらに、現状満足度が高いと、政府の政策運営(特に経済政策)に国民の側から注文をつけるムードが薄れがちだという、潜在的には実に大きな問題がある。時代・状況の変化に応じた先見的な政策の実行(たとえば人口対策の強化)が、さらに遅れてしまう恐れがある。

 本郷和人氏が書いた『真説 戦国武将の素顔』(宝島新書)を読んだところ、興味深い記述があった。最近の若い研究者は「秩序に弱い」というのである。

 そうすれば研究するのが楽だというほかに、ソ連が崩壊したあとのイデオロギー対立のない世界でだけ生きてきているせいか、「秩序を信用しない」ということがほぼない。今ある秩序を正しいと思い込んでしまい「秩序自体に疑いを持つ」という発想がない。それが歴史理解にも悪い意味で反映されてしまい物事を疑ってみるという発想が出てこない。本郷氏はそう喝破している。こうした若い世代の思考パターンの特徴は、ビジネスの現場でもしばしば観察される話だと思うのは、筆者だけではあるまい。

 生産性を向上して経済の成長力を高めるには、何らかの革新が必要になる。だが現状への満足からは、革新は生まれにくいのではないか。

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