サルビーニ副首相は8月20日、イタリア国債のドイツ国債とのスプレッド(利回り格差)拡大や投機、債務の格付け引き下げ、市場への攻撃などの動きが出た場合「政府は立ち向かう」という、市場に対して挑戦的なトークを発した。

 ディマイオ副首相は28日、19年の財政赤字対GDP比が3%を上回る可能性があるとの見解を示した。選挙で公約した支出計画に資金を拠出するためだという。「(3%の上限を超える可能性を)排除しない。あらゆることがあり得る」と述べた。

 サルビーニ副首相は同日、イタリアの市場が投機的な攻撃を受けた場合、EU以外の国外からの支援を期待していると述べた。同副首相はトリア経済・財務相の中国訪問について、EU以外の国と友好関係を強化する取り組みの一環であると説明。「もし誰かがイタリアに投機を仕掛けようとすれば、われわれはEU以外からの支援を頼りにする」と述べるとともに、中国以外にも米国やロシアとも関係を強化する意向を示した。

 大手格付会社フィッチ・レーティングスは8月31日、イタリアの国債格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。これに関連してディマイオ副首相は9月2日、「格付会社の指摘に従って市場を安心させる反面、イタリア国民を裏切ることなど考えられない」「われわれは常にイタリア国民を優先させる」とコメントした。

 こうした中、イタリアの10年物国債利回りは8月31日に一時3.25%まで上昇。独10年債との利回り格差は290ベーシスポイント(2.9%)を超えるところまで一時拡大した<図1>。

■図1:イタリアとドイツの10年物国債利回り
(出所)ロイター

 しかしその後は、筆者が抱いた財政規律の弛緩への警戒感を「火消し」する方向で、コンテ首相やトリア経済・財務相だけでなく連立与党の党首2人からも、金融市場に安心感を与えようとする発言が繰り返し出てきている。恥ずかしながら筆者がほとんど予想していなかった事態である。

 サルビーニ副首相は9月3日のラジオ番組で、19年の財政赤字はEUの定める上限である対GDP比3%を超えることはない、3%未満の水準を維持したいと述べた。翌4日には、「われわれはすべての規律、すべてのコミットメントを尊重する、納得してもらえるよう努力する」とコメント。さらに、「五つ星運動」党首のディマイオ副首相からも、そうした発言が出てきた。

債券市場は、「生きている」のが望ましい

 イタリアの財政の先行きについて安心感が市場に広がる中、同国の10年債利回りは低下を続け、対ドイツ国債の利回り格差は急速に縮小した。

 どうして連立与党党首の発言が急におとなしくなったのか。あるいは首相や経済・財務相の主張を受け入れたのか。

 その謎を解くカギを含んでいたのが、トリア経済・財務相がフォーラムに出席して9月9日に行った発言である。

 「その後の利回り上昇で30億~40億ユーロを余分に払う必要が出てくるとすれば、20億~30億ユーロ赤字を増やしても意味がない」。トリア氏はこう述べつつ、閣僚の全員が「それを十分心得ている」と説明。さらに、現在ユーロ圏で2番目に高いGDP比130%を上回る債務比率の圧縮が実現すれば、「金融市場でのイタリアのプレゼンスを強化し、ひいては財源を解き放ち、投資を呼び込むと期待される」とした。

 ユーロ圏では、財政規律弛緩に対して債券市場が警告を発信する機能が生きている。ECBが量的緩和を年末に予定通り終了すれば、そうした機能はより自由に発揮されることになる。そして、市場の力による金利コストの増加は、イタリア政府が自由に使える財政資金を減らす方向に働く。そのあたりに、債券市場が事実上日銀の支配下にあって、財政面の警告シグナルを発信する機能が消滅してしまった日本との、決定的な違いがある。

 やはり、債券市場は「生きている」のが望ましい。たとえポピュリストの政権が誕生する場合でも、そのことによって財政政策の規律は維持されやすくなる。