2018年9月19日、オーストリア・ザルツブルグで開かれたEU首脳会議に出席したイタリアのコンテ首相(写真=ロイター/アフロ)

 イタリア北部のジェノバで8月14日、高速道路の高架橋が約200メートルにわたって崩落し、30人を超える死者と多数の負傷者が出た。高速道路は1967年に完成し、2年前に改修工事が実施されたという。

 このニュースに接した筆者はすぐに、日本で大規模災害の発生時に、公共事業拡張論者が「防災・減災」の必要性を唱えて公共事業費の上積みを図っている状況を念頭に、財政拡張論を前面に出してきたイタリアのポピュリスト・右派連立政権でも似たような主張が出てくるのではないかと予想した。そしてそれは、すぐに現実になった。

 連立政権に参画している右派政党「同盟」の書記長でもあるサルビーニ副首相・内相は同日、シチリア島のカタニアで記者団に対し、イタリアの投資支出を増やすことがいかに重要か、今回の崩落事故が物語っていると述べ、EU(欧州連合)の支出制限が生命を危険にさらしかねないと強調。「外部からの制約が安全な道路や学校を整備するための支出を妨げるとすれば、これらのルールに従うことが理にかなうかどうか疑問が生じる。イタリア人の安全と財政規律のトレードオフ(交換)などあり得ない」などと述べた。

「我々の優先事項は、国民と国民のニーズだ」

 これに対し、欧州委員会の報道官は16日に反論。「合意された財政規律には、加盟各国が特定の政策優先課題を設定できる柔軟性を持たせてあり、インフラの開発や維持管理を優先課題にすることも可能だ」と指摘して、サルビーニ氏による上記の主張をはねつけた。

 要するに、対GDP(国内総生産)比で3%以内という財政赤字の許容範囲は通貨統合への参加ルールとして決めているが、その枠内での歳出の使途についてはイタリア政府に十分裁量あり、ということである。また、イタリアは14~20年の交通網インフラ整備向けにEUから25億ユーロを受領しており、さらに4月には同国の高速道路向けに約85億ユーロの投資計画を承認したという。

 これより前、やはり連立政権に加わっているポピュリスト政党「五つ星運動」のトップであるディマイオ副首相・経済発展相は8月6日、国営放送RAIのインタビューで、EUが設定した条件に反することなく改革を実施するよう努めるとしつつも、「われわれの優先事項は(財政規律のルールではなく)、国民と国民のニーズだ」と明言した。

 9日夜にはディマイオ副首相はテレビ番組で、財政運営における均衡予算原則を義務付けている憲法上の規定について、「将来的にこの規定は廃止されるべきだと考える」とまで踏み込んで述べた。

 また、イタリア国債のリスクプレミアム(リスクの大小に見合った市場金利の上乗せ部分)をECB(欧州中央銀行)が市場からの同国債買い入れを通じて一定の範囲内に押さえ込むことへの期待感も、与党内の一部から出てきた。

 「同盟」の経済担当報道官は8月13日、トルコリラの急落を受けて市場が全般に「リスクオフ」に傾斜してイタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧の国債利回りが軒並み上昇する中、「問題は解決されず破裂するだろう」とした上で、ECBはあらゆる2国間の国債利回り格差の上限を150ベーシスポイント(1.5%)以内にすると保証すべきだと主張。驚くべきことに、「ECBが保証しなければ、ユーロは崩壊する」とまで述べた。

 一方、イタリアのコンテ首相とトリア経済・財務相は、同国の財政規律をしっかり維持することに強くコミットしている。コンテ首相は13日、主要閣僚と19年の予算について協議。財政安定を維持するとともに公的債務を削減する方針で一致したと、首相府が声明で明らかにした。この協議には「同盟」および「五つ星運動」の党首、トリア経済・財務相も参加していたという。

 それでも連立与党の党首からは、財政を拡張しようとする発言がしばらく出続けた。ユーロ圏の債券市場参加者にとって、それらは恰好のイタリア国債の売り材料である。