購買力平価に対し、円安ドル高方向へのかい離が継続

 為替市場ではいま、「各国中央銀行の金融政策のベクトル」が最大のテーマになっている。米国のFRB(連邦準備理事会)は利上げを断続的に実施して金融政策の正常化を模索しており、ベクトルは「引き締め方向」。日本との差は歴然としている(なお、賃金・物価の上がりにくさゆえにFRBの利上げ路線は近く行き詰まり、利上げ局面は終了して為替は円高ドル安に動くと筆者は予想しているのだが、それはまた別の話なのでここでは詳述しない)。このため、為替相場の長期的な均衡点の目安とされる購買力平価(PPP)から、ドル/円の市場実勢は、円安ドル高方向に大きくかい離した状態が長く続いている。

 ドル/円の購買力平価の計算手法はさまざまであり、どの物価指標を用いて基準年をどこに設定するかなどにより、数字は変わってくる。筆者の場合、以下の2つを用いている。

 ①日米の輸出デフレーターを用いて試算したドル/円購買力平価(1973年平均が起点)<■図4><■図5

■図4:ドル/円購買力平価① 日米の輸出デフレーターを使用した試算値と市場実勢
■図4:ドル/円購買力平価① 日米の輸出デフレーターを使用した試算値と市場実勢
(出所)内閣府、日銀、米商務省資料より筆者作成
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■図5:同上 市場実勢とのかい離率(プラスは円安方向、マイナスは円高方向)
■図5:同上 市場実勢とのかい離率(プラスは円安方向、マイナスは円高方向)
(出所)内閣府、日銀、米商務省資料より筆者作成
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 日米の輸出デフレーターから試算される2017年4-6月期時点の購買力平価は、87.04円であり、市場実勢(2017年6月末東京市場17:00時点)からの円安方向へのかい離率は28.8%である。昨年11月の米大統領選でトランプ候補が勝利した後の「トランプラリー」におけるドル高がそうしたかい離に寄与した部分もあったわけだが、基本的には、2013年4月から行われている日銀の異次元緩和が事実上「エンドレス」になっているため、かい離率がヒストリカルに見て円安ドル高方向でかなり大きくなっていると認識すべきだろう。

 ②日本の企業物価指数(国内需要財・最終財<国内品>)と米国の生産者物価指数(最終需要向け・最終財)を用いて試算したドル/円購買力平価(1973年平均が起点)<■図6><■図7

■図6:ドル/円購買力平価② 日本の企業物価指数(国内需要財・最終財<国内品>)と米国の生産者物価指数(最終需要向け・最終財)を用いた試算値と市場実勢
■図6:ドル/円購買力平価② 日本の企業物価指数(国内需要財・最終財<国内品>)と米国の生産者物価指数(最終需要向け・最終財)を用いた試算値と市場実勢
(出所)日銀、米労働省資料より筆者作成
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■図7:同上 市場実勢とのかい離率(プラスは円安方向、マイナスは円高方向)
■図7:同上 市場実勢とのかい離率(プラスは円安方向、マイナスは円高方向)
(出所)日銀、米労働省資料より筆者作成
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 日米の卸売段階の物価指数から試算される2017年8月時点の購買力平価は77.21円であり、市場実勢(2017年8月末東京市場17:00時点)からの円安方向へのかい離率は43.1%という、非常に大きなものになっている(過去最大は2015年7月の57.9%である)。

 すでに述べた通り、購買力平価は長期的に考える場合の為替水準の目安であり、図からも見てとれるように、通常はそれをはさんで市場実勢は上下に振れる。だが、日銀が異次元緩和を始めた2013年以降は、円安ドル高方向への大幅なかい離が常態化している。

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