チケット需給ひっ迫への対策が必要

 ファン層の広がりを将来にわたって音楽業界がしっかり確保しようとするならば、こうしたそもそものチケット需給ひっ迫と価格高騰に対してこそ、何らかの対応策が必要ではないだろうか。

 無論、筆者のそうした指摘に対しては、コンサートなどを開催するコストが上昇しやすくなっている面があるという反論なども、音楽業界の関係者からおそらく出てくるだろう。また、CDの売り上げが落ちている中で、コンサートやグッズの料金で収益を挙げるビジネスモデルへと音楽業界がシフトしているという指摘もある。

 人々の所得が以前よりも高くなっている中国をはじめとするアジア諸国では、人気アーティストによるコンサートの開催ニーズが高まっており(たとえばK-POPの人気アーティストは驚くほど頻繁にアジア各国に出向いている)、需給ひっ迫ゆえに公演料・出演料は上がっていると推測される。

 さらに、為替相場は「アベノミクス」開始前に比べればまだ円安ドル高であり、日本の業者にとってコスト高の要因である。

高価格・少量販売では、音楽業界の発展はない

 また、今年は音楽業界で言われてきた「2016年問題」の年に当たっている。建て替えなどのため、国立競技場、渋谷公会堂、日本青年館などが閉鎖されているほか、横浜アリーナは改修のため1月からしばらく閉鎖された(7月1日にリニューアルオープン)。さいたまスーパーアリーナは改修のため2月からしばらく休館した(メインアリーナは5月に営業再開)。会場の確保という面でも、需給ひっ迫がコストの増加につながりやすいと言える。人気アイドルグループ・乃木坂46が毎年2月に行っていたデビュー記念日ライブ開催を、今年は会場確保困難を理由に延期したことが話題になった。この例のように開催者側ではコンサートの回数をもっと増やしたいが、会場の確保が思うようにいかないため断念しているケースもあるだろう。

 だが、コンサートなどのチケットの需給ひっ迫を放置して、高い料金設定による少量販売に安住しているようだと、音楽業界のファン層の将来的な広がりや深化にとって、明らかにネガティブである。やはり、できる範囲で対応策を打つべきだ。

需給ひっ迫を和らげるため、ライブビューイングも

 これはすごいと言えるアイディアを筆者が持っているわけではないのだが、以下のようなことは検討に値するように思う。

◆首都圏なら、東京都区部や中核都市以外にある会場でのコンサート開催を真剣に検討する(たとえば東京・多摩地区には一定規模のコンサートを開催できる会場が複数ある)。
◆音楽の種類やそのアーティストの意向にもよるが、コンサートを夜1回だけにするのではなく、同じ会場で昼と夜の2回にする。
◆映画館や屋外会場でコンサートなどの様子をリアルタイムで放映するライブビューイングを積極的に行う。

 まっとうな需要を減らそうとするのは問題外なので、供給を増やす努力をすることによって、チケットの需給ひっ迫を、少しでも和らげようとするわけである。

 無論、そうした対策をとって需給がある程度緩んだとしても、一度高くなってしまった料金がなかなか下がりにくいことは認めざるを得ない。しかし、そこを乗り越えて、高騰してしまった料金の引き下げに今後努力するかどうかが、将来の需要動向に着実に影響してくるはずである。

座席の場所など微妙な需給が反映される転売サイトは「あり」

 なお、筆者はインターネット上のチケット転売サイトについて、正規料金の50倍以上といった異常な高額での取引を何らかの形で封じ込めることには賛成だが、微妙な需給を反映した価格の形成がなされ得る場としての転売サイトの存在意義自体は前向きにとらえている。

 たとえば、1階の最前列の席と最後列の席が同じ料金というのは、やはり合理的ではない。より細かい料金設定をするのが本来は望ましいわけであり、音楽業界がそのように料金設定を変えることを将来検討する際には、市場メカニズムによる価格形成が反映された転売サイトにおける価格の分布を参考にする余地があろう。

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