宿泊した宿の屋上から見えた、美しく輝く「岩のドーム」

 そして、イスラム教の聖地である神殿の丘では、岩のドームの黄金の屋根が、猛暑の中で日光を浴びて美しく輝いていた。非ムスリムは中に入ることができないが、モスクの中には他の国で何度か入った経験があるし、イスラム教は偶像崇拝を排しているので、あまりこだわりはなかった。丘の上の広々としたスペースには、日陰で涼むベールをかぶった女性、サッカーに興じる子どもなど、人々のさまざまな姿があった。ちなみに、筆者が宿泊した宿の屋上からは、神殿の丘が良く見えた<写真2>。薄暮の中でモスクのスピーカーから街中に響き渡るアザーン(礼拝の呼びかけで「アッラーフ・アクバル(アッラーは偉大なり)」から必ず始まる)は異国情緒たっぷりだと筆者は思うし、今回は眺め付きで堪能したのだが、賛同してくれる人はあまりいないようである。

写真2
写真2
エルサレムの旧市街にあるイスラム教の聖地「神殿の丘」。神殿の丘には岩のドーム(写真中央の黄金の屋根の建物)が建っている。

高い分離壁と覆面画家の作品が、本当の見どころ

 翌日金曜の朝、ダマスカス門の外側にあるアラブバスと呼ばれる路線バスのターミナルから21番に乗り、パレスチナ自治区に属しているベツレヘムへと筆者は向かった。目的は、キリストが生まれた場所にある聖誕教会などの観光である。行きは、イスラエルとパレスチナ自治区との境界での身分証チェックはなかった。ところが、現地に着いて「雇ってくれ」と集まってくるタクシー運転手の話を聴いてみると、関心が違う方に向かった。日本のガイドブックには全く書かれていないのだが、イスラエルがパレスチナ自治区との境に築いた高さ8~10メートルという非常に高い分離壁と、それに描かれている英国の有名な覆面画家バンクシーの作品が本当の見どころだというのである。バンクシーという画家については筆者もおぼろに知っていたが、ここがその関連で重要なスポットだということは、恥ずかしながら、来るまで知らなかった。多少お金はかかるが、2人目に説明を受けたアリ氏の車を雇って、案内してもらうことにした。

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