ドイツ軍は激戦のさなかでも休暇を取っていた

 では、Expediaの調査には出てこないが日本とは真逆と言える、有給休暇消化率が極めて高いドイツの状況は、どのようなものだろうか。筆者が最近読んだドイツに関する2冊の本から興味深かった部分を、最後に引用したい。

 驚いたことに、第2次世界大戦中のヒトラー体制下のドイツ軍でも、休暇取得制度がしっかりワークしていた。日本人にはすぐには真似のできない国民性というか、メンタリティーが、ドイツではしっかり根付いていることがわかる。

■熊谷徹 「ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか」(青春出版社 青春新書インテリジェンス、880円+税)

 「大半のドイツ企業が、労働組合との間の賃金協約に基づき、30日間の有給休暇を与えている。さらに、残業時間を1年間に10日前後まで代休として消化することを認めている。大手企業の中には、33日間の有給休暇を与えている会社もある。したがって多くのドイツの会社員は、実際には40日前後の有給休暇を取っていることになる」

 「もちろん日本の経営者も、社員に有給休暇を与えることを労働基準法によって義務づけられている。だが労基法による最低休暇日数は、企業への就職直後はまず10日であり、継続勤務年数が6年半を超えてようやく20日になる。ほとんどのドイツ企業では、企業に採用されてから半年間の試用期間には、有給休暇を取る資格はない。しかし試用期間が過ぎれば、ただちに30日間の有給休暇を取る権利が与えられる。つまり最低休暇日数において、日独の間にはすでに大きな格差があるのだ」

 「私がドイツで『すごい』と思うのは、大半のサラリーマンが30日間の有給休暇を、完全に取るということだ。ほとんどのドイツ人たちは、本当に毎年30日間、休暇を取っているのだ」

 「知り合いのドイツ人たちを見ていても、管理職を除けば、有給休暇を100%消化しない人はいない。消化できなかった有給休暇をお金で払ってもらうという話も聞いたことがない」

 「また休暇の時の連絡先を上司に伝える必要はないし、平社員には、休暇の間に仕事のメールを読む義務もない。休暇の間は完全に『行方不明、音信不通』になることが許される。それは、『週末や休暇中に会社のメールを読んでいると、気分転換ができない』と考える人が多いからだ」

 「有給休暇に加えて、ドイツには毎年9~13日間の祝日がある。祝日数は、州によって異なる。大半の祝日は、キリスト教にまつわるもので、カトリック教徒が多い南部地方ほど、祝日の数が多い。たとえば2015年の時点で祝日の数が最も多いのは、バイエルン州の13日」

 「バイエルン州の多くの企業では有給休暇、祝日、代休を合わせると、56日間休めることになる」

■大木毅 「ドイツ軍事史-その虚像と実像」(作品社、2800円+税)

 「クレフェルト(『補給戦』の著者として有名なマーティン・ファン・クレフェルト)のまとめによれば、原則として、すべてのドイツ軍人は、階級や兵科にかかわらず、年間14日の休暇(所属部隊と自宅の往復に要する時間として、別に2日)が与えられていた。ほかに、結婚や家族の死亡といった慶弔時、自宅が爆撃で破壊された場合、あるいは家族の入院などといった事態となった際には、10~20日の休暇が認められることがあった。ちなみに、休暇が与えられるのは、既婚者が未婚者に優先。加えて、既婚者のあいだでも、家庭に何か問題があるものが先にもらえることになっている。ただし、作戦開始直前、あるいは、出動が予想される場合には、指揮官には、すべての休暇を差し止める権利がある。なお、前線にある部隊の場合、休暇を与える人数は、総員の1割を超えてはならないと規定されていた」

 「しかし、かように立派な規定があったとしても、戦況が厳しくなり、一兵卒といえども貴重となってくれば話は別、実際には休暇など与えられなかったのではないのか。南方の島々に兵をばらまき、休暇どころか、補給さえも充分に与えなかった総司令部をいただいていたという過去を持つ日本人の一人としては、つい、そう疑ってしまう」

 「ところが、幸い1942年から43年にかけての第9軍(司令官は、ヴァルター・モーデル上級大将)の休暇関係記録が残っており、これを分析すると、この時期にあっても休暇システムが機能していることがわかる」

 「第9軍にあっては、ひと月あたり構成員の約10%に休暇を与えている。前線勤務にあたる兵士には、原則として、最初の1年には12か月あたり1度、2年目には9か月に1度、3年目には6か月に1度の割で休暇が許可された。また、前線部隊の将兵は(連隊指揮所より前方で勤務するものと規定されている)休暇を得るにあたり、後方要員よりも優先されることになっていた。驚くべきことに、第9軍に関していえば、激戦のさなかにあっても、こうした休暇規定は守られていたのである」

 このように見てくると、「働き方改革」のうちで有給休暇の積極的取得という問題は、日本の場合、トップダウンで進展するような容易な話ではないことが痛感される。

 残念な結論だが、結局、一人ひとりが自らの意識改革を行いながら、無理ない範囲で、できるだけのことをやっていくしかないのだろう。