黒田総裁の発言を吟味する

 黒田総裁の記者会見での発言内容から、「総括的な検証」の内容に関連する他の部分もいくつか引用しておきたい。どのような内容になるのかのヒントが提供されているからである。発言の引用は時事通信の詳報による。( )内は筆者の解釈である。

■【黒田総裁の発言】「マイナス金利にしても量的緩和の拡大にしても限界に来ているとは全く思っておりません」

(【筆者の解釈】→ マイナス金利政策の撤回や長期国債買い入れの「打ち止め宣言」はなさそうだ)

■【黒田総裁の発言】「量的・質的金融緩和を導入して3年強、そしてマイナス金利を導入して以来半年、1月に決定して実際に適用されたのは3月からですから、半年ぐらいというところで、総括的な検証を政策委員会において行おうということであります」

■「例えば今年の1月にマイナス金利を導入して(中略)、イールドカーブ(利回り曲線)は非常にフラット(平坦)になっていると。それが金融機関の収益状況にどのような影響が出るのかとか、そういったことも含めて当然、総括的な検証を行うと思います(後略)」

(【筆者の解釈】→ マイナス金利に限定した効果・弊害・副作用の検証も行われる可能性が高い)

■【黒田総裁の発言】「量、質、金利と申しますが、特に量、質の方はずっとこの3年強やってきたわけですし、金利の方は今年から始まったわけですけれども、量の面も非常に重要であるということはよく認識をされております。そういう意味で、何か量を軽視するとか、そういうことになるとは思っておりません」

(【筆者の解釈】→ 「量」すなわち長期国債買い入れを柱とするマネタリーベース目標は撤回されそうにない。仮にあるとしてもテクニカルな修正までか)

■【黒田総裁の発言】「特に石油価格の大幅な下落等を受けて、2014年10月には量的・質的金融緩和を拡大したわけです。それによって予想物価上昇率がどんどん下落していくというのはある程度抑えられたとは思うんですけれども、ご承知のようにその後も石油価格の下落は続き、それから最近で言いますと、昨年来の中国を含む新興国の経済成長に関する不透明感とか、そういうこともあったり、いろんなファクターが重なっているとは思うんですけれども(中略)、特に石油価格の大幅な下落というのはなかなか予想できなかったことでありまして(後略)」

(【筆者の解釈】→ 日経新聞の報道にもある通り、2年で2%を実現できなかった主因として、原油価格の下落があらためて指摘される可能性が非常に高い)

■【黒田総裁の発言】「まだ総括的検証をする前ですので、特定の方向性を言うのは適切でないと思いますけども、ご指摘のようなことで2%がまだ実現されていないわけですから、2%をできるだけ早期に実現するために何が必要かという観点から、当然、総括的な検証を行い、その検証結果に応じて必要ならば必要な措置を取るということに尽きると思います」

(【筆者の解釈】→ 議論の行方、および会合時点の情勢次第で、検証の結果発表と同時に追加緩和が決定される可能性もある。ただし、仮にそうする場合は、「戦力の逐次投入ゲーム」に日銀が陥る恐れがますます高まるということでもある)

■【黒田総裁の発言】「2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するということは、日本銀行としての2013年1月以来、政府との共同声明以来、維持してきているコミットメントでありまして、これを変えるつもりは全くありません」

(【筆者の解釈】→ 物価安定の目標である「2%」は、政府との合意事項でもあるため、変更されない可能性がきわめて高い)

■【黒田総裁の発言】「その上で、この総括的な検証というのは、(中略)状況をよく分析・検証して、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成するために何が必要か、何がなされるべきかということを虚心坦懐に検証していこうということであります」

(【筆者の解釈】→ 検証する主体が第3者委員会ではないことからすれば、「虚心坦懐に検証する」とは言っても、結論の大枠が「お手盛り」的なものになることは見えているように思われる)

 9月の「総括的な検証」は、あまりにも硬直化し、「ぶれたら負け」という考えにとらわれている日銀の、金融政策運営やメッセージ発信を修正する一つの機会にはなり得るだろう。

 だが、国政選挙で勝利した首相官邸からの日銀に対する「にらみ」が強く効いた状態であることに変わりはない。黒田総裁自身が全否定した通り、「物価安定の目標」である2%という数字は動かしようがない。