ちなみに、筆者はロシア・ウラジオストクに以前出向いた際、街中で孔子学院を見つけたことがある。上述の定義では「シャープパワー」を行使する対象は民主主義国だが、実際には中国は他の権威主義的国家にも影響力を及ぼそうとしているわけである。

 英エコノミスト誌は、欧米民主主義国が中国の「シャープパワー」を無視するのは危険だと主張した。SNSの影響力が大きいことも考え合わせると、その通りだろう。では、日本を含む民主主義諸国は、こうした「シャープパワー」にどう対抗すべきなのか。

 あくまで「ソフトパワー」で対抗すべきという主張も出てきやすいが、ややナイーブか。

 SNSの監視を強めるなどしながら、個別に「シャープパワー」を押さえ込んでいくのが、現時点では最善の策だろう。ただし、国家がバックにいるので「シャープパワー」は資金力が豊富である。際限なくコストがかかる、泥沼のような戦いに陥る恐れもある。

 そうした中、基本的に寛容な民主主義を標榜してきたはずの先進国の多くで、政治の流れが「反エスタブリッシュメント」「反グローバリズム」「反移民・難民」に傾いていることに留意が必要である。ポピュリズムの台頭と、強権的な手法を掲げる政権の増加である。

G7のシャープパワー対策は困難

 カナダ・シャルルボワで6月に開催されたG7サミットは、米国が孤立した「G6+1」だと形容されたが、これは本質的には正確ではないと、筆者は考えている。

 これまでの秩序を壊そうとしている点で、イタリアのポピュリスト政権は米トランプ政権と同類。英国はEU(欧州連合)からの離脱に動いている。ドイツでは、反移民の極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を拡大しており、10月のバイエルン州議会選を控えて強い危機感を覚えたCSU(キリスト教社会同盟;連立与党の一角)の党首、ゼーホーファー内相が移民・難民対策での強硬措置発動を一時主張し、メルケル連立政権の崩壊が取り沙汰される場面もあった。

 G7が一致団結して効果的な「シャープパワー」対策を講じるのは、どうやら困難な情勢である。民主主義という政治体制がベストだとする日米欧の伝統的な価値観は、今後も揺さぶられ続けるだろう。そして、そうした伝統的な価値観を信奉する人々と、そうでもない若い世代などの間で、先鋭的な政治対立が生じる場面が、これからも頻繁に見られるに違いない。日本がいつまでも例外というわけにはいかないだろう。