国際政治の世界で、ある国が他の国に影響力を及ぼそうとする際に用いるパワーには、2つの種類があるとされてきた。1つは、軍事力や経済力といった「ハードパワー」。そして、これと対置されるのが、魅力ある文化や価値観(民主主義を含む)が生み出す「ソフトパワー」。著名な学者であるジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授の造語である。

 最近になって「シャープパワー」という、3つめの新たな概念が登場した。ワシントンにあるシンクタンク、全米民主主義基金(NED)のクリストファー・ウォーカー氏らが昨年12月に「フォーリン・アフェアーズ」に掲載した論文で初めて用いた言葉だとされている。

「孔子学院」で発揮されるシャープパワー

 中国やロシアといった権威主義的な体制の国が、米国など民主主義諸国に自国の立場や価値観を受け入れさせる狙いから、世論を巧妙に操作したり、圧力をかけたりする手法を指している。ロシアが16年の米大統領選にSNSを通じて影響を及ぼそうとしたケースが典型的な事例。中国が世界各地に設立している教育機関「孔子学院」も、「シャープパワー」の事例とされる。

 中国語では、これら3つはそれぞれ「硬実力」「軟実力」「鋭実力」と訳されるという。「鋭実力」という訳は、標的になった国の政界やメディアなどに鋭く迫るというイメージがよく出ている。「特徴的なのは、自国の民主化を徹底的に拒みながら、相手国の民主主義の開放性を利用する点だ」「買収や情報操作、スパイ活動、嫌がらせや圧力を通じて、自らの価値観や政治的意向を浸透させたり、自国に有利な方向に忖度(そんたく)させたりする。こうした動きを説明する言葉として『シャープパワー』は国際論壇の流行語になっている」(5月29日 朝日新聞)。