ところが、米国のハイテク技術の流出を防ぐための対内投資規制強化をどのような形で行うかという問題では、融和派が巻き返した。米国で現在、中国を含む外国資本による対米投資の可否を審査しているのは、対米外国投資委員会(CFIUS)である。強硬派は中国以外の国も対象にしているこの既存の枠組みではなく、中国を標的にした新たな枠組みを作ることを提唱した。

 だが、トランプ大統領は6月26日、「米国は世界でも最も優れた技術を持っており、それを盗もうと人がやってくる」「米国はそれを守らなければならない」と述べつつ、中国一国に対する新たな措置ではなく、既存のCFIUSの見直しによる投資規制を支持する考えを表明した。ムニューシン財務長官の案を支持したわけである。

 もっとも、中国が投資規制の対象になるという点で、両案に基本的な違いはない。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、大統領による上記の対応は中国に対する態度の軟化を示すものではないと明言した。

 なお、米議会ではこの間、CFIUSの権限強化による投資規制を盛り込んだ法案が圧倒的多数で可決され、共和党・民主党のいずれもが中国企業へのハイテク技術の流出を、米国にとっての脅威だと考えていることが浮き彫りになった。下院は26日、外国による対米投資を厳格化する法案を400対2という圧倒的賛成多数で可決した。

 上院の案を含め、こうした法案は、政府系を中心とする中国企業による米国のハイテク企業の買収を食い止めることを狙っている。大統領や議会の勢力分布が今後変わっても、中国を「仮想敵国」に事実上位置付けている米国の姿勢は不変だろう。

トランプ政権が中国をターゲットにした理由

 したがって、米国と中国のこうした争いが収拾される道筋は、まったく見えていない。「米中貿易戦争」は、程度の差こそあれ、もはや避けられないように見える。

 独大手自動車メーカーのダイムラーは20日、今年度の業績見通し下方修正を発表した。米・アラバマ工場で生産して中国に輸出しているスポーツタイプ多目的車(SUV)が、米国製自動車に対する中国の報復関税の適用対象になる見込みであり、価格上昇から販売台数が計画よりも減る見込みだというのが、その理由とされた。

 グローバルにサプライチェーンが構築されている中で、こうした事例は今後頻発するだろう。トランプ大統領の「世界観」は、経済のグローバル化が大きく進展するよりも前、日米通商摩擦が焦点になった80年代のままだと、皮肉交じりに指摘する識者もいる。

 このように、米国の高関税措置と、中国などによる対抗措置が世界経済全体にじわじわ悪影響を及ぼし始める中で、米株式市場では21日にかけて、ニューヨークダウ工業株30種平均が8営業日続落となった。

 反グローバル化の姿勢をとり「米国第一」を掲げるトランプ政権(およびその後の米国の政権)内で対中強硬派が主導権を握り続ける場合、米国と中国の「覇権争い」は、「リスクオフ」の材料をマーケットに提供し続けることになる。

 トランプ政権が中国を主たるターゲットにして「米国第一」を前面に掲げた保護主義策を展開している理由は、以下の3つに整理することができる。

 長い目で見た場合には、(1)(2)よりも(3)が、はるかに重要。将来さまざまな面で米中対立が激化するだろう。

(1)トランプ大統領が「悪」とみなしている米国の貿易赤字縮小
 輸入を減らし、貿易相手国に市場開放を促して輸出を増やすことにより、米国の経済・労働者はメリットを受けるはずだと、トランプ大統領は固く信じているようである。