もっとも、ハト派のドラギECB総裁が以前にこの1.7%という数字に関して述べたことと比べると、やはりバイトマン独連銀総裁はタカ派だという印象が強くなる。

 ドラギ総裁は16年12月のECB理事会終了後の記者会見で、その当時の19年のHICP見通しだった前年比+1.7%は「2%未満だが2%に近い」に沿っているかと記者から質問された際に、「そうでもない(not really)」と返答。1.7%という物価上昇の見通しが成り立つだけでは不十分であり、粘り強く金融緩和を続ける必要があるというニュアンスを帯びた発言をした。

 ただし1年後、17年12月の記者会見で同様の質問がぶつけられた際に、ドラギ総裁はダイレクトに答えるのを避けつつ、重要なのは持続的で持続可能なインフレ率に向けた中期的な収れんの足取りの強さだ、と説明していた。

 仮に、バイトマン氏が下馬評通りECB総裁に就任する場合でも、ECB理事会内でタカ派が急に多数派を形成するわけではない。コンセンサスを得ようとする中で、あえてタカ派的な主張をトーンダウンせざるを得ない場面もあるだろう。また、物価の上昇に加速感が出ていない点など、経済の実態もむろん足かせになる。

近づくドラギ時代の終焉

 それでも、19年に入ってからは、「ドラギ時代の終焉」が近づいているという意識を市場参加者が抱く場面は、増えやすくなると考えられる。ドイツやフランスなどユーロ圏の国債相場は、下落方向で揺さぶられやすくなるだろう。

 また短期金融市場では、時間の経過とともに、19年9月ごろと現在みられている1回目の利上げをまたぐことになるターム物の金利が強含みとなり、資金調達(ヘッジ)コストが徐々に高くなると見込まれる。長短金利差を享受する狙いのユーロ圏の債券への投資には、今年の年末までは安心感がかなりあるものの、19年に入ってからは慎重なポジション運営に切り替える必要があろう。

 では、ECBは19年以降、何回利上げできるのだろうか。将来の経済・金融情勢の展開次第で結論が変わってくる話であり、現時点で確定的なことは言えないが、総裁がタカ派のバイトマン独連銀総裁に交代したECBが頑張って利上げを続けても、マイナス金利から脱却する(現在▲0.4%の中銀預金金利がゼロ%になる)あたりまででおそらく精一杯ではないかと、筆者はみている。そう考える根拠は、以下の4つである。

(1)サービス価格の上昇力が明らかに弱いこと

 ユーロ圏のHICP総合は5月速報で前年同月比+1.9%に水準を切り上げ、表面的にはECBの物価安定の定義に合致した。だが、コア(除くエネルギー・食品・アルコール・タバコ)は同+1.1%止まりで、原油価格の上昇に依存した総合ベースの伸び率に持続性はない。

 また、HICPのベースラインの動きを示すものとして筆者が毎月注視している「サービス」は、イースターの日付のずれというカレンダー要因による振れを伴いつつも、上昇力は弱いままである(今年1~5月の前年同月比は+1.24%、+1.28%。+1.49%、+1.03%、+1.61%で、平均すると+1.33%にすぎない)。

(2)米FRB(連邦準備理事会)の利上げサイクルから大幅に遅れていること

 米国の利上げ開始は15年12月であり、すでに利上げ局面入りしてから約2年半が経過している。これに対し、ECBは量的緩和をまだ停止しておらず、利上げは最速でも19年半ばとみられている。

 米国で金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の参加者の中には、政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの誘導水準が中立金利に到達して19年中に米国の利上げが停止する可能性に言及する人(ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁)や、利上げは即時停止すべきだと主張する人(ブラード・セントルイス連銀総裁)もいる。利上げ観測が強まって為替市場でユーロの騰勢が強まると、それは利上げに等しい引き締め効果を景気・物価に及ぼす。

 そして、近い将来に米国の利上げ局面が終了してしまうと(筆者はそのように予想している)、ECBの利上げがユーロを上昇させる、そしてそれがユーロ圏の物価を押し下げる可能性は、それだけ高くなる。ユーロの値動きを、ECBは今後も神経質に注視するだろう。