預金と貸出金の差(預貸ギャップ)は、過去最大に
一方、日本の金融環境(金融業界が置かれた状況)を1つの経済指標で手軽に確認しようとする場合に最も適切なのは、貸出・預金動向速報だろう。
日銀が6月8日に発表した5月分で、総貸出平残<銀行計>は432兆4126億円(前年同月比+2.2%)で、実質預金+CD(譲渡性預金)<3業態計>は653兆7966億円(同+3.3%)になった<図2>。なお、「実質預金」とあるが、ここで言う実質とは物価の騰落で調整したという意味ではなく、表面的な預金額から手形・小切手の未決済分を除いてあるという意味である。
貸し出しは前年同月比+2%台で緩やかに伸びている。だが、預金は同+3%台で、上向きの角度が貸し出しよりも急である。その結果、預金と貸出金の差である「預貸ギャップ」は5月に221兆3840億円に達し、過去最大を更新した。
有力な選択肢は、不動産業への貸し出し
すでに元気がない上に下振れリスクを帯びた経済状況の下で、銀行貸し出しが全体として伸びを加速するとは考え難い。余ったお金が主に向かう先は、通常は有価証券の世界ということになる。
だが、日銀のマイナス金利導入の影響で、このルートも狭まっている。10年物国債利回りは▲0.1%台。30年物国債利回りはプラスの世界に踏みとどまっているものの、0.2~0.3%台にすぎない。銀行の資金調達原価が平均して1%前後であることを考えると、この債券を購入する場合でも逆ざやになってしまう。
このように資金運用面での手詰まり感がきわめて強い中で、消去法的に有力な選択肢になっているとみられるのが、不動産業への貸し出しである。
2015年から実施された相続税増税への対策として注目されているアパートローン(土地の相続税評価額を引き下げる狙いから更地に貸家を建設する案件への融資)、グローバルな金余り状況の中で東京の不動産は割安だとみた海外マネーが流入する中での都心再開発案件など、元気がない日本国内の景気循環とは切り離された原因によって資金需要が生じているところへ、融資を強化する動きが強まっている。
5月20日に日銀から公表された貸出先別貸出金(四半期調査)(3月)で、業種別の設備資金新規貸出の金額をチェックすると、国内銀行および信用金庫による不動産業向け設備資金新規貸出額が、足元で一段と増加したことがわかる<図3>。
2016年1-3月期の不動産業向け設備資金新規貸出額(国内銀行+信用金庫)は、3兆7447億円+6666億円=4兆4113億円。初めて4兆円台に乗せて、過去最高額を更新した。
同じ四半期の設備資金新規貸出額全体に占める不動産業向けの比率は、国内銀行が27.7%、信用金庫が36.7%で、いずれもこれまでで最も高い数字である<図4>。
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